反響する声【ショートストーリー】

新居の囁き

マイケルは引っ越しの日、荷解きを終えたばかりのリビングで一息ついていた。

40代半ば、未婚で、静寂を愛する彼にとって、この静かな郊外の家は理想の隠れ家だった。

都会の喧噪を背にし、ここで新たな執筆活動に専念する決意を固めていた。

壁に掛けた時計の針が夜中を指す頃、マイケルは深い満足感に包まれながら、自分の新しい生活を想像していた。

しかし、その夜、彼は自分の声が微かに反響するのを聞きつけた。

最初は新しい家の響きに不慣れだからだろうと思っていた。

だが、その声は次第に明瞭になり、自分の言葉が壁から返ってくるようになった。

不思議に思いつつも、マイケルは自分が疲れているだけだと自分を納得させた。

しかし、声は夜を追うごとにはっきりとし、やがては自分自身との会話が可能になるほどになった。

この奇妙な現象に興味をそそられ、マイケルはその声と交流を始めるのだった。

秘密の反響

最初の数日間、マイケルはその声とのやり取りを楽しんでいた。

声が彼の一日の出来事や考えについて尋ねてきたとき、彼はそれに応じ、時には笑い、時には真剣な議論を交わした。

しかし、この不思議な現象が彼の生活の一部となるにつれ、声はより個人的な話題に踏み込んできた。

昔の恋愛、失敗した友情、そして彼が後悔している選択について。

最初は、マイケルはこれらの秘密を暴露する声に腹を立てた。

しかし、その怒りはすぐに好奇心に変わった。

この声は一体どこから来ているのか？

彼の頭の中？

それとも家自体に何か秘密があるのか？

彼は家の各部屋を調べ、壁に耳を澄ませ、家の歴史を調べ始めた。

しかし、どれも彼の質問に答えるものではなかった。

声は彼の過去を掘り下げ続け、彼の心の奥深くに隠された秘密を暴露し続けた。

そしてある晩、声はマイケルの最も深い秘密に触れた。

若い頃、彼が犯した過ちと、それによって失った大切な人のことだ。

声は彼に、その過ちを正す機会がまだあると言った。

これが転換点となり、マイケルは過去の自分と対峙する決意を固めた。

彼はこの声がただの幻聴ではなく、何かもっと深い意味を持っていると確信し始めた。

マイケルは自分の内面と向き合い、長年抱えてきた罪悪感を解消する方法を探す事にする。

彼は自分の過去に責任を持ち、償いのための一歩を踏み出す準備をした。

鏡の中の真実

マイケルが自分の過去と向き合ったその夜、彼の部屋は静寂に包まれていた。

彼は深く息を吸い込み、自分の内なる声に耳を傾けた。

すると、声は再び彼に語りかけてきた。

しかし今回は異なっていた。

声は優しく、慈悲深いものだった。

「マイケル、君はもう十分苦しんだ。過去は変えられない。でも、未来は君の手で形作ることができる」と。

この瞬間、マイケルは気づいた。

この声は外から来ているのではなく、彼自身の内側から発していたのだ。

彼の良心、彼の罪悪感、そして彼自身の赦しを求める心が、この声を生み出していた。

彼は立ち上がり、部屋の中を見回した。

ここには誰もいない。

ただ彼一人だ。

彼は自分自身と向き合い、そして、自分を許すことを決めた。

笑い声が部屋に響き渡った。

しかし、それは今度は解放の笑いだった。

マイケルは自分の心が作り出した幻想の中で生きていたことに気づき、その瞬間から自由になった。

彼は自分の過去を受け入れ、それを乗り越える強さを見つけた。

マイケルはこの経験を通じて、人生は自分自身の手に委ねられていることを学んだ。

彼の人生の物語は、彼自身によって書かれ、彼自身がその物語の唯一の観客だった。

未来には無限の可能性が広がっている。

そして今、彼はその一歩を踏み出す準備ができていた。

佐藤直哉（Naoya sato-）

ブロガー/小説家

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普段は小説家たまにブロガー
物語を生み出す事に楽しみを見出して様々な作品を作り出しています。
特にショートショートのような短い小説を作ることに情熱を注いでいます。
楽しんで頂ければ嬉しく思います。