未来を変える鏡【ショートストーリー】

現代、世界はかつてない速さで変わり続けている。

ある朝、新聞の片隅で、未来を映し出す鏡「未来の鏡」が発表されたという記事を目にした。

科学技術がもたらしたこの最新の奇跡に、私はただならぬ興奮を覚えた。

人は常に未来に何が待ち受けているのかを知りたがるものだが、その答えが目の前にあるというのだから、興味を抑えることなどできるはずもなかった。

彼の名を「田中」という。

平凡な会社員であり、特別な才能も野心も持ち合わせていない。

しかし、この「未来の鏡」には、自分の人生を変える力があるかもしれないと思った。

鏡を通して見る未来が輝かしいものであれば、現在の自分に満足し、もし暗いものであれば、それを避けるための手立てを講じることができる。

いずれにしても、知ることに損はないと考えた。

「未来の鏡」を体験するためには、都心から少し離れた研究施設を訪れる必要があった。

予約制で、数ヶ月待ちという話だったが、幸いにもキャンセルが出たおかげで、私はすぐにでもその機会を得ることができた。

施設への道中、私の心は複雑な感情で満ちていた。

期待と不安、好奇心と恐れ。

これらが入り混じりながら、私を未来との対面へと導いた。

施設に到着し、鏡の前に立つと、私は深呼吸をした。

これから目の当たりにするものが、どんなものであれ、それは自分がこれまで積み重ねてきた選択の結果だと自分に言い聞かせた。

そして、鏡に映し出された未来を見た瞬間、私は言葉を失った。

そこには、想像していた輝かしい景色も、暗い影もなかったのだ。

未来を映す鏡は輝かしい成功も、深い失望もない、何とも言えない平凡さそれが自分の未来だと突き付けてきた。

この予期せぬ中立的な未来に直面し、私は混乱した。

一体、これからの人生で何を目指せばいいのか。

しかし、その瞬間、私は理解した。

未来はまだ書かれていない。

自分の手で、より豊かな物語を紡ぐチャンスがあるのだ。

そこで、私は生活の中で小さな変革を始めた。

まずは自分自身の内面から。瞑想を始め、心の平穏を求めた。

読書を通じて、さまざまな人生観や価値観に触れ、自分の視野を広げることに努めた。

これらの積み重ねが、徐々に私の日常に小さな光をもたらし始めた。

次に、長年心の奥底にしまっていた夢に挑戦する決意を固めた。

それは、小説を書くことだった。

書くことで自分の内面と向き合い、想像の翼を広げることで、鏡が映し出した平凡な未来に、色と深みを加えていく。

作品を通じて、他者と深いつながりを築き、共感を得ることができれば、それは私にとって最大の成功だろう。

職場では、これまで避けていた新しいプロジェクトに積極的に参加し始めた。

失敗を恐れずに挑戦することで、自分自身の可能性を広げ、鏡が示した未来を超えるためのステップを踏み出した。

この経験は、私に新たな自信と満足感をもたらした。

この過程で私が学んだのは、未来は一瞬にして変わるものではなく、日々の小さな努力と決断によって形作られるということだった。

鏡は私に特定の未来を示したわけではない。

それはむしろ、自分自身で未来を創造していくためのきっかけを与えてくれたのだ。

そして今、私は自分の人生の筆を握り、これからの物語を自らの手で描いていく準備ができている。

数年の努力の後、私は再び「未来の鏡」の前に立った。

この時、私は自信に満ちあふれていた。

自分自身の変化を信じ、新たな未来を築き上げたはずだった。

しかし、鏡に映し出された光景は、予想外のものだった。

そこには、私が小説を書いている姿が映っていた。

しかし、その横で、私の書いた本が山積みにされ、誰にも手に取られずに埃をかぶっているのだ。

一瞬、私の心は凍りついた。

しかし、次の瞬間、私は笑い出した。

何年もの間、私は自分が望む未来を追い求め、それに向かって一生懸命になってきた。

そして今、私の努力の結果がこれだ。

皮肉なことに、この鏡は私に最も大切なことを教えてくれた。

それは、結果がどうであれ、自分の道を歩む勇気を持つことの価値だ。

私は鏡から目を逸らし、深呼吸をした。

そして、心の中で決めた。

たとえ私の本が誰にも読まれなくても、私は書き続ける。

なぜなら、私は書くことが好きだから。

そして、自分の人生は自分で決めるものだということを、再び自分自身に確認したのだった。

私は「未来の鏡」に背を向け、施設を後にした。

外に出ると、清々しい空気が肌を撫で、心をリフレッシュさせてくれた。

未来がどうなろうと、私は私の道を歩む。

そして、その過程で見つける小さな喜びこそが、真の成功なのだと心から感じた。

未来が予測不可能であるからこそ、人生は面白く魅力的なのだ。

佐藤直哉（Naoya sato-）

ブロガー/小説家

XYouTube

普段は小説家たまにブロガー
物語を生み出す事に楽しみを見出して様々な作品を作り出しています。
特にショートショートのような短い小説を作ることに情熱を注いでいます。
楽しんで頂ければ嬉しく思います。