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閉鎖したのに消えなかった――ブエノスアイレス地下鉄の幽霊ホーム

佐藤直哉(Naoya sato-)
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はじめに

深夜のブエノスアイレス。

地下鉄A線の列車が、パスコ駅を出発します。

その直後。

窓の外に、暗いホームがもう一つ現れます。

「今、駅を出たばかりだよね?」

乗客が驚きます。

ホームには、古いタイルと閉ざされた階段。

列車は停まらず、そのまま通過します。

パスコ駅には、現在使われているホームとは別に、閉鎖された古いホームが残っています。

駅全体がなくなったわけではありません。

片側のホームだけが使われなくなり、地下に取り残されたのです。

そして、その閉鎖ホームには、ときどき二人の作業員が現れるといわれています。

※本記事は筆者個人の感想を含む、エンターテインメントを目的とした内容です。

地下鉄の横に残る閉鎖ホーム

ブエノスアイレス地下鉄A線には、パスコ駅とアルベルティ駅があります。

どちらも現在使われている駅です。

ただし、開業当時は上下線のホームが少し離れた場所に、互い違いに造られていました。

その後、パスコ駅の南側ホームと、アルベルティ駅の北側ホームだけが閉鎖されます。

「駅を丸ごと閉じたわけではないんですね」

「片側だけだよ」

閉鎖されたホームには、古いタイルや階段、駅名標が今も残っています。

列車はそのすぐ横を走りますが、停車することはありません。

現役の駅を出た直後、暗闇の中に昔のホームが現れる。

事情を知らない乗客には、同じ駅がもう一度現れたように見えます。

なぜ駅の半分だけ閉鎖されたのか?

「事故でもあったの?」

「いや。駅が近すぎたんだ」

当時のパスコ駅とアルベルティ駅は、ホームの間隔が短く造られていました。

列車が発車しても、すぐに次の停車位置が見えてきます。

「もうブレーキ?」

「まだ速度も出ていないのにね」

そこで1950年代、互いに近かった片側のホームを一つずつ閉鎖しました。

列車は余計な停車をせず、以前より滑らかに走れるようになります。

ただし、役目を失ったホームは壊されませんでした。

営業中の線路のすぐ隣にあるため、撤去には費用がかかります。

工事中は列車の運行を止める必要もあります。

「閉じるだけなら、そのままでいい」

こうして入口だけがふさがれ、誰も降りない古いホームが地下に残りました。

ジュゼッペ氏とレオナルド氏

深夜のパスコ駅。

閉鎖ホームを通り過ぎた乗客が、隣の男に尋ねます。

「今、作業員が二人いませんでしたか?」

「つるはしとシャベルを持っていた?」

「ええ」

「ジュゼッペとレオナルドだよ」

二人は地下鉄A線の建設中、崩落事故で亡くなったイタリア人作業員だといわれています。

それ以来、道具を持ったまま閉鎖ホームに現れ、通過する列車を見送っているのだとか。

ただし、二人がそこで亡くなったという記録は見つかっていません。

「名前まで分かっているのに?」

「名前だけが残っているんだ」

本当にいた作業員なのか?
後から怪談につけられた名前なのか?

列車が通り過ぎる数秒では、確かめることもできません。

二つのホーム、違うその後

「アルベルティ駅にも、古いホームが残っているの?」

「残っている。ただし、今は変電設備として使われているんだ」

パスコ南側ホームには、古いタイルや階段が今も残っています。

列車の窓から見ると、閉鎖された当時の姿がそのまま残っているようです。

一方、同じ時期に閉鎖されたアルベルティ北側ホームには、後に電気設備が設置されました。

ホームには金属製の機器が並び、現在も列車を動かすために使われています。

「同じように閉鎖されたのに、ずいぶん違うね」

「片方には、新しい使い道が見つかったんだ」

アルベルティ北側ホームは変電設備になり、地下鉄を支える場所へ変わりました。

パスコ南側ホームには、新しい役目が与えられませんでした。

同じように使われなくなった二つのホーム。

一方は現実の仕事へ戻り、もう一方は古い姿のまま暗闇に残りました。

最後に

列車がパスコ駅を出ます。

暗いホームが窓の外を流れていきます。

ある乗客には、古い柱しか見えません。

別の乗客には、つるはしを持った男が見えます。

「今、誰かいたよね?」

けれど、列車は戻りません。

確かめられないまま、ホームは闇へ消えます。

ジュゼッペとレオナルドに、確かな記録はありません。

それでも二人の話が消えないのは、今夜も誰かが同じ場所を通り、同じ疑問を残していくからでしょう。

閉鎖されたホームに列車は停まりません。

その代わり、怪談だけが乗客から乗客へ乗り継がれているのです。

おまけの4コマ

ABOUT ME
佐藤直哉(Naoya sato-)
佐藤直哉(Naoya sato-)
ブロガー/小説家
文章を書くことを楽しむ自称・小説家です。
歴史や文化、日々の暮らしに潜む雑学を題材に、無駄雑学などの小噺を発信しています。
どうぞ、ふらりと覗いてみてください。
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