【誰も降りない駅】世界の地下に今も残る、忘れられたホーム
はじめに

地下鉄の窓を眺めていた男が、ふいに顔を上げました。
「今、駅がなかった?」
「駅?」
「ホームみたいなのが見えた」
友人が路線図を確認します。
「ここには何もないぞ」
列車は何事もなかったように暗いトンネルを走っていきます。
東京の地下には、地図に載っていない「第0区」と呼ばれる場所がある――。
そんな都市伝説があります。
秘密の路線。
閉鎖された駅。
誰も入れない地下空間。
ただ、調べてみても「第0区」が実在したことを示す確かな記録は見つかりません。
「じゃあ、ただの作り話か」
そう思いたくなります。
ところが世界を見てみると、
本当に地図から姿を消した地下鉄駅が存在しました。
しかも、その理由は幽霊よりずっと現実的です。
※本記事は筆者個人の感想をもとにエンターテインメント目的で制作されています。
列車は止まらない。「幽霊駅」

1961年。
ベルリンの壁によって、街は東西に分断されました。
ところが地下鉄の線路まで、きれいに二つには分けられません。
西ベルリンを走る列車の一部は、途中で東ベルリンの地下を通ります。
「じゃあ、東側の駅にも止まるの?」
「止まらない」
駅は閉鎖されました。
乗客はいない。
出口も使えない。
薄暗いホームを、列車だけが通り過ぎていきます。
こうした駅は、
「Geisterbahnhöfe」
つまり「幽霊駅」と呼ばれました。
幽霊が出るからではありません。
そこに駅はあるのに、
誰も駅として使えなかったからです。
廃駅の奥に、本当に秘密施設があった

「秘密の地下施設なんて、さすがに映画の話だろ」
そうとも言い切れません。
ロンドンには、Down Street駅という閉鎖駅があります。
1907年に開業しましたが、利用者が少なく1932年に閉鎖。
そのまま忘れられるはずでした。
ところが第二次世界大戦が始まります。
地下深くにあり、爆撃から守りやすい。
しかも一般客はもう入ってこない。
そこで駅の内部は改造され、
鉄道運営を指揮する秘密の地下施設
として利用されました。
空襲が激しかった時期には、当時のイギリス首相ウィンストン・チャーチル氏も利用したとされています。
「廃駅の奥に政府施設」
都市伝説のような話ですが、
こちらは本当にあったようです。
電車は今も、使われなくなった駅を通る

ニューヨークにも奇妙な駅が残っています。
旧City Hall駅。
1904年、ニューヨーク地下鉄の開業時に造られた駅です。
天井には美しいアーチ。
天窓。
シャンデリア。
地下鉄駅とは思えないほど豪華でした。
しかし1945年に営業を終了します。
「じゃあ、もう使われていない?」
駅としては。
ただし、線路は別です。
現在も地下鉄6系統の列車が折り返す際、この場所を通ります。
つまり、
ホームはある。
線路もある。
電車も来る。
でも、
誰もそこで降りることはできません。
駅から「乗客」だけが消えたような場所です。
地下では、昔の都市が残り続ける

地上なら、使われなくなった建物は壊されることがあります。
地下は少し違います。
巨大なホーム。
トンネル。
階段。
壁。
それらを全部取り除く必要がなければ、そのまま残されることもある。
ベルリンでは政治によって駅が閉じられました。
ロンドンでは廃駅が秘密施設に変わりました。
ニューヨークでは、営業を終えたホームの横を今も列車が走っています。
都市は新しくなっているように見えて、
地下には、
昔の都市がそのまま置き去りになっていることがあります。
最後に

地下鉄を降りた男が、もう一度路線図を見ます。
「結局、第0区なんてなかったんだな」
友人がうなずきます。
「たぶんな」
二人は改札へ向かいました。
その足元のさらに深い場所では、
今も列車が古いホームの横を走っている。
誰も降りない駅があり、
かつて政府が使った部屋が残り、
地上から忘れられた空間が暗闇の中に続いている。
第0区は作り話だったのかもしれません。
それでも地下には、誰も降りなくなった駅が残っています。
列車は今日も、その前を何事もなかったように通り過ぎていきます。

