楽観と悲観の果てに【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
ナカムラ博士は、自分の天才ぶりを証明するために、日々新たな実験に挑んでいた。
まずは、被験者に特定の音を聞かせ、その後にだけ食事を与える方法を試した。
期待通り、数週間後には被験者は音が鳴るだけでお腹が空くようになった。
「さすが、俺の発明はすごいな」と博士はほくそ笑んだ。
しかし、彼の野心は止まらなかった。
次に彼は、被験者たちに恐怖を煽るニュースを見せ、その後に食事を取らせるという実験を開始。
すると、被験者たちは食欲を失い、ナカムラ博士の計画通りの結果を示した。
だが、次第に奇妙なことが起こり始めた。
被験者たちは、ニュースを見なくても、そのテーマソングを聞いただけで胃が重くなり、食事を避けるようになってしまったのだ。
「これは…もしかして危険かも」と博士は考えたが、興味本位で実験を続行した。
そして、ついに自分にもその影響が現れる。
「何だこれは、俺まで!」
博士は驚愕した。
今や彼は、研究室で流れる音楽を聞くだけで食欲を失い、日常のあらゆる音にも過敏に反応するようになってしまったのだ。
「このままではまずい…」と、ナカムラ博士はようやく気づく。
自らが作り出した習慣が、彼自身の生活を蝕んでいくことに。
だが、その恐怖から逃れる方法は、もはや見つからなかった。