風に舞う時間【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
ヤマダは、どんな状況でも決して諦めないことが人生の鉄則だと信じる、頑固な会社員だった。
彼のモットーは「諦めない者が最後に勝つ」という、まるで古の戦国武将のような信念だった。
「ナカムラ、覚えておけ。勝者は絶対に諦めないやつだ」
ヤマダは胸を張りながら、自信満々に語った。
ナカムラは穏やかに微笑んで「でも、時には方針を変えることも必要ですよね?」と、軽く反論する。
ヤマダはその言葉を一笑に付し「それが甘いんだよ、ナカムラ。途中で切り替えたら、すべてが無駄になる。俺は決めたことは最後まで貫く。だから、俺が勝つんだ」と、強い口調で言い切った。
数年後、ヤマダは社長に昇進し、彼の「勝利」は確定したように見えた。
対照的に、ナカムラは変わらず同じ部署で働いていた。
ヤマダは誇らしげに「見ろ、俺が諦めなかったからこそ、今の地位があるんだ」とナカムラに言った。
ナカムラはにこやかに「おめでとうございます」と言いながら、心の中では別の思いを抱えていた。
実は、ナカムラは既に会社の外で新しい道を見つけ、その道で成功を収めていたのだ。
ヤマダは自分の選んだ道を貫いたが、その代償として自由を失い、肩書きに縛られる結果となった。
一方で、ナカムラは自分の道を柔軟に選び、自由な生活を楽しんでいた。
ヤマダの背中を見送りながら、ナカムラは心の中で静かに考えた。
「選ぶ道によって、人生はまったく違う景色を見せてくれるな」