理論的な見送り【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
ヤマダは、自分を「データの申し子」と誇りに思っていた。
人付き合いが苦手な彼がある日、上司に向かって得意げに言った。
「これで僕も、人望を集められるんですよ!」
「ほう、それは興味深いな。で、どうするんだ?」と上司が目を輝かせたのを見て、ヤマダは得意気に頷いた。
「簡単です。相手の話にただ深くうなずくだけ。これだけで、相手からの信頼がぐんと上がるんです!」
ヤマダは誇らしげにデータを広げた。
「僕の分析によると、この方法が一番効果的です」
その日から上司は、あらゆる場面でこの「うなずき戦術」を実行。
会議で深々とうなずくと、全員が彼を信頼し、何でも賛同してくる。
瞬く間に、上司は社内のリーダーに祭り上げられた。
数日後、ヤマダは部長に昇進。
データの力でここまで来たと満足していたが、ある日、社長室に呼ばれた。
ドアを開けると、社長が静かに深くうなずいているのを見たヤマダの心臓が、一瞬だけ止まったように感じた。
「ヤマダ君、君の仕事は非常に素晴らしい。しかし、君の才能は別の場所で発揮してもらおう」
その瞬間、ヤマダは全てを悟った。
頷くしかない、自分が推奨したルールに従うしか――。
ヤマダは、ただ静かに深くうなずいた。
それが、彼に残された唯一の選択肢だったから。