至福の静寂【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
史上最悪の凶悪医師、クロダは冷酷な手術で患者を苦しめていた。
病院の奥にある秘密の部屋で、彼は一人ほくそ笑んでいた。
彼の真の目的は、医学界への復讐だった。
かつて有望な若手医師として期待されていたが、同僚の嫉妬と陰謀によりキャリアを破壊された。
無実の罪で医師免許を一時剥奪された過去が、彼の心に深い憎しみを植え付けたのだ。
クロダは復讐のために、毎回成功した手術の報告書を提出していたが、その内容はすべて偽造されていた。
病院のシステムはAIに依存しており、その偽造報告書もAIが審査していた。
人間の医師たちはAIの判断を絶対視し、誰もクロダの真実に気づかなかった。
ある日、一人の若い研修医、サカイがクロダの不審な行動に気づいた。
しかし、彼もまたAIの判断を盲信していたため、その疑念を深追いすることはなかった。
クロダの悪行が明るみに出た時、病院全体がAIへの過度な依存を非難されたが、クロダ自身はその混乱に乗じて姿を消した。
クロダの逃亡後、社会全体がAIへの依存を見直し始めた。
医療現場では、AIと人間の協力が重要だと再認識され、システムの見直しが行われた。
しかし、クロダの行方は依然として不明のままであり、人間の愚かさと技術への盲信がもたらした深い傷は、長く社会に残された。
この事件は、技術と人間の信頼関係の危うさを示す象徴として語り継がれることとなった。