誰に仕掛ける?【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
タナカは誰にでも親切だった。
困っている同僚を助け、上司の無茶な要求にも笑顔で応じる。
そんな彼の評判は、会社中で「いい人」として定着していた。
ある日、新しいプロジェクトのリーダー選出があり、タナカはひそかに期待していた。
しかし、選ばれたのは冷酷な同僚、スズキだった。
スズキは結果だけを求めるタイプだ。
タナカは落胆しながらも、気を取り直してスズキをサポートすることに決めた。
プロジェクトは順調に進んでいたが、スズキの計画ミスで大きな問題が発生。
タナカは夜遅くまで残り、何度もスズキを助けてなんとかプロジェクトを軌道に乗せた。
最終的にプロジェクトは大成功を収め、会社はスズキを表彰し、昇進させた。
タナカは内心少しだけ不満を感じたが、またいつものように笑顔で仕事を続けた。
その夜、タナカはスズキからの電話を受けた。
酔ったスズキは言った。
「君がいなければ、この成功はなかった。でも、いい人は成功できないんだよ。だから僕が選ばれたんだ」
タナカは電話を切り、静かに笑った。
「君がリーダーでいてくれるおかげで、僕は裏で自由に動ける。次も頼むよ、スズキさん」と心の中でつぶやいた。
全てはタナカの計画通りだった。
スズキの無能さこそが、彼の成功の鍵だったのだ。