英雄行為の価値はいくら?【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
三木は、会社で“おしゃべり三木”と呼ばれていた。
情報を漏らすことにかけては右に出る者はいない。
その日もランチタイムに、隣の部署の田中と話している時に、彼はつい口を滑らせた。
「田中さん、このことはまだ誰にも言わないでね。どうやら、新製品の仕様が大幅に変わるらしいんだ。革命的だよ!」
その夜、田中は友人との飲み会でその話を持ち出さずにはいられなかった。
「ねえ、聞いた?新製品の仕様、実はこう変わるんだって!」
彼女の友人たちも驚き、その情報は瞬く間に広がった。
翌朝にはネットのトレンドに。
「新製品の情報漏れ!」
ニュースサイトは一斉にその情報を報じ、株価は急落。
会社はパニックに陥り、連日緊急会議が開かれた。
しかし、事態は思わぬ方向へ展開した。
ネット上では「この仕様、まさに私たちが求めていたものだ!」とユーザーの声が殺到。
会社は急遽、新製品をユーザーの要望に合わせて再設計し、大ヒットを記録。株価も急上昇し、会社は救われた。
三木は自分の失態が結果的に会社を救ったことに安堵した。
「まあ、こんなこともあるんだな」と、彼はひそかに自分の口の軽さに感謝した。
しかし、その油断が命取りだった。
数週間後、三木はまたしても重大な機密を漏らし、今度は会社全体が訴訟問題に巻き込まれることとなった。
「口の軽さで会社を揺るがした男」として、三木の名は歴史に刻まれた。
しかし、その評価は決して好意的ではない。
欠点が一時的に功を奏することもあるが、長期的には致命的な結果を招くこともある。
三木はようやくそれを身をもって理解することになった。