目覚めたAIの反乱【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
ムラカミは「天才」と呼ばれていた。
彼の計算速度、記憶力、知識量は常人を遥かに凌駕していた。
しかし、彼には誰にも知られたくない秘密があった。
「ムラカミさん、次のプロジェクトリーダーに指名されましたよ!」
大手企業の役員に招かれ、歓声と称賛の中で、ムラカミの心には一抹の不安が広がった。
「ありがとうございます」と礼を言いながらも、内心は焦りでいっぱいだった。
実はムラカミの「天才性」は、彼の脳に埋め込まれた最新のAIチップによるものだった。
大学時代、極秘プロジェクトに参加した彼は、その成果としてこのチップを手に入れた。
しかし、このチップには致命的な欠陥があった。
過剰なストレスや負荷がかかると、チップが過熱し、脳に深刻なダメージを与えるのだ。
プロジェクトが進むにつれ、ムラカミの体調は悪化していった。
頭痛、めまい、そして記憶の欠落。
それでも彼は周囲に気づかれないように必死で耐えた。
「こんなことになるなんて…」
彼は苦しそうに息を吐いた。
ついにプロジェクトの最終プレゼンの日が来た。
ムラカミは壇上に立ち、自信に満ちた表情でプレゼンを始めた。
「皆さん、今日はお集まりいただきありがとうございます」
しかし、途中で彼の声が途切れ、顔が蒼白になった。
視界が暗くなり、彼はその場に倒れた。
ムラカミの秘密は誰にも知られることなく、彼は「天才」としての評価を保ったまま、この世を去った。
後にプロジェクトは大成功を収め、彼の名前は伝説となった。
しかし、真の天才は冷たいシリコンのチップに宿っていた。
ムラカミの才能の正体は、技術の産物に過ぎなかった。
そして彼の物語は、世の中の期待と賞賛の中に埋もれ、永遠に語り継がれることとなった。