欲望の花【ショートショート】
美しき欲望の花
小さな町の端っこに、蘭とタンポポが咲き乱れる庭があった。
住人のナカムラは、退職後の孤独を紛らわせるために、この庭を愛情込めて手入れしていた。
彼の庭は町の人々にとっても癒しの場となっていた。
「今日も平和だなぁ」と呟きながら、ナカムラはいつものように庭を見回っていた。
すると、見慣れない植物が現れた。
それは花びらが蘭で茎がタンポポ、根は奇妙に絡み合った怪物のような姿をしていた。
「お前は一体何者だ?」と、ナカムラは驚いて声をかけた。
その植物は、まるで人のように微笑んで答えた。
「私は蘭タンポポ、二つの植物が合わさって最強の姿となった存在です。人々に美しさと力を提供するためにここにいます」
ナカムラはその言葉に半信半疑だったが、その妖艶な美しさと力に魅了されてしまい、蘭タンポポを世話することに決めた。
蘭タンポポには特別な力があった。
花びらは触れるだけで傷を癒し、茎からは無尽蔵のエネルギーが放出され、近くにいる人々に活力を与えた。
また、根からは生命を育む栄養が分泌され、周囲の植物を急速に成長させる力を持っていた。
蘭タンポポはたちまち町中で話題になり、多くの人々がその姿を見に訪れるようになった。
怪物は人々に希望と喜びを与えたが、同時に不安も広がっていった。
誰もがその力を利用しようとし、蘭タンポポを巡る争いが激化した。
「こんなことになるとは…」と、ナカムラは嘆いた。
ある夜、彼はついに蘭タンポポの本性を知ってしまう。
蘭タンポポは人々の欲望を吸収し、その力でどんどん巨大化していたのだ。
ナカムラは恐怖に駆られ、怪物を止めようと試みたが、すでに手遅れだった。
翌朝、町は巨大な蘭タンポポに覆われていた。
人々はその美しい景色に目を奪われていたが、その裏には欲望に囚われた人々の姿があった。
ナカムラは荒れ果てた庭で呆然と立ち尽くしていた。
蘭タンポポは静かに囁いた。
「あなたたちの欲望が私を育てたのです」
ナカムラは、自分の欲望が引き起こした結果を目の当たりにし、冷たい笑みを浮かべた。
「こんなにも美しい破滅があるとはな…」
その瞬間、蘭タンポポの花びらが一枚落ち、地面に触れると、それが新たな怪物の芽生えとなった。
町全体がこれからどうなるのか、ナカムラは暗い予感に囚われた。