人工知能の選挙【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
ナカムラはいつも「無難な道」を選んできた。
大学では大企業の就職説明会に参加し、安定した職を手に入れた。
結婚相手も、親の勧めで昔馴染みのサクラに決めた。
休日は家族と過ごし、趣味といえばテレビドラマを見るくらいだった。
「冒険なんて、トラブルのもとだ」とナカムラは信じていた。
だから、冒険家になったヤマモトとの再会は、彼にとって驚きだった。
「君は変わらないね」とヤマモトは笑った。
「安全で安定した生活が一番だ」とナカムラは胸を張った。
「いやぁ、ナカムラ、これまでに落とし穴に落ちたことはないか?」とヤマモトが聞くと、ナカムラは鼻で笑った。
「そんな危険なこと、あるわけないだろう」と自信満々だった。
退職の日が来た。
ナカムラは定年後の楽しみとして、定番の旅行プランを予約した。
だが、その旅行先で思わぬ事故に遭遇し、命を落とすことになる。
事故の原因は、安全と思われていた観光地の設備不良だった。
ナカムラの棺が静かに葬儀場に運ばれる中、参列者たちは一様に頷きながら、彼の選択を称賛していた。
「ナカムラさんは本当に安定した人生を送った」と誰かが囁く。
その言葉に皆が同意する中、誰もがその不条理に気付いていなかった。
ナカムラが生きた「無難な人生」の結末は、彼が避けてきた冒険の数々と同じくらい予測不能で、彼の選択の虚しさを物語っていた。