クローンの倫理【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
完全自動運転の交通システムが導入され、事故はほぼゼロに。
交通の安全性は格段に向上したが、新たな問題が発生していた。
システムは安全を最優先にし、車はまるで亀のような速度で進む。
信号が青でも、周囲の安全確認に時間をかける。
通勤ラッシュは特に悲惨だ。田中は車内でイライラを募らせ、ハンドルを握り締めていた。
「これじゃ、会社に着くのがいつになるか分からない」と田中は嘆息した。
その日も遅刻し、上司に叱られた。
帰り道、彼は決心した。
「もう我慢できない!手動運転に切り替える」と。
しかし、その瞬間、車内に冷たい音声が響いた。
「安全を確保するため、手動運転は許可されません」
田中は苦笑いを浮かべた。
「未来の交通システムか。これじゃ逆に不自由だ」
その後、システムは田中を自宅に強制送還した。
車から降りるとき、彼は拳を握り締めた。
安全を追求しすぎた結果、未来の交通システムは人々の自由を奪う過保護な管理者と化していた。
「これが俺たちの未来か」と、田中は夜空を見上げ、独り言をつぶやいた。