次の一手【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
都会のカフェ、午後の静けさが漂う。
窓際の席で彼女はスマートフォンを片手に、頻繁に画面をスクロールしていた。
通知音が絶え間なく鳴り、彼女の表情には焦りが見える。
隣のテーブルから声が聞こえる。
「ずっとスマホを見てるね。何か急ぎの仕事でもあるの?」
若い男の問いに、彼女は顔を上げて苦笑する。
画面には未読のメッセージが山積みだ。
「急ぎじゃないけど、常に追われてる感じがして」
彼女の目は疲れたように曇っている。
「何に追われているの?」
「時間と、他人の期待に。いつも何かに追いつこうとしてるの」
男は少し黙り、やがて穏やかに微笑んだ。
「ここで少し休んでみない?コーヒーでも飲みながら」
彼女は驚いたように彼を見つめ、やがて微笑みを返す。
スマートフォンの画面を消し、バッグにしまった。
「そうね、少し休もうか」
二人は席を立ち、カウンターへ向かう。
カフェの柔らかな光が、彼らを包んだ。