凍えた影【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
和也は仕事のストレスで疲れ果てていた。
ふらりと立ち寄ったペットショップで、金色に輝く金魚を見つけた。
「この金魚、喋るんですよ」と店員が微笑む。
少しでも癒しを求めて、和也はその金魚を購入した。
自宅で金魚鉢を見つめていると、突然金魚が「田中は不倫しているよ」と囁いた。
驚いた和也はその情報を確かめるべく、田中をそれとなく問い詰めた。
結果、田中は動揺し、秘密を認めた。
「これは使える」と和也は思った。
金魚の囁きを利用して同僚を操り、会社での地位を上げていった。
秘密を握る快感に溺れ、和也は次第に冷酷になっていく。
しかし、ある日金魚が「和也、君の浮気も知っているよ」と言い始めた。
和也の秘密が次々と暴露され、彼は孤立していった。
絶望の中で和也は金魚を捨てようと決意するが、金魚は冷たく「全部、店主に話したよ」と囁く。
和也は顔面蒼白になり、震えが止まらなかった。
全てを知っていた店主の冷ややかな笑みが脳裏に浮かんだ。
そして翌日、ペットショップには「新入荷!お喋りする金魚!」のポスターが貼られていた。
その横には、和也が捨てたはずの金魚が新たな犠牲者を待って泳いでいた。
和也は膝をつき、呟いた。
「俺の秘密も、結局は誰かの手の中にあるんだな」