不運のリサイクルバケツ【ショートショート】
運命のバケツが招く、クリスマスの悪夢
宮本は、不運に見舞われた男だった。
朝は電車が遅れ、上司に叱られ、ランチのカレーはぬるい。
帰り道では突然の雨に降られ、傘も持っていなかった。
そんな彼の前に現れたのは、古びた骨董品店だった。
店内で目に留まったのは「不運を他人に移せるバケツ」だ。
店主が「このバケツ、サンタクロースに盗まれたことがあるんだよ」とおどけて言うのに惹かれ、宮本はそのバケツを手に入れた。
「使い方は簡単です」と店主は説明した。
「相手の頭上に向けて振るだけで、不運が移ります。ただし、一度使い始めると元に戻すのは難しいので、慎重にね」
翌日、宮本はさっそく同僚の田中にバケツを使ってみた。
田中は階段で転び、コーヒーをこぼし「今日はついてないな」と苦笑い。
宮本は、自分の不運が消えたことに内心でガッツポーズ。
だが、次第に宮本はバケツの力に依存するようになった。
会議で失敗したくないとき、電車が遅れないように祈るとき、常にバケツを手にするようになった。
彼は他の同僚にも次々と不運を移し、職場は大混乱。
「まるで不運のリレーだな」と自嘲気味につぶやく。
ある日、バケツの力が暴走し始めた。
不運が連鎖的に広がり、職場全体が混乱の渦に巻き込まれる。
宮本はその様子に愕然とし「まさか、こんなことになるとは…」と震える声でつぶやく。
そして、すべての不運が宮本自身に戻ってきた。
まず、階段を踏み外して転倒し、足を捻挫。
次に、コーヒーをこぼして書類を台無しにし、上司に激しく叱責される。
さらに、重要な会議で失敗し、同僚の前で恥をかく。
帰り道では財布を落とし、雨に打たれながら濡れたまま家に帰る羽目に。
そのとき、彼はバケツに貼られた小さなラベルに気づいた。
「返品不可。クレームは受け付けません」
宮本は苦笑いを浮かべた。
「やっぱり、不運は逃げないってことか。サンタもびっくりだな」
クリスマスの奇跡は、結局、悪夢で終わるのだった。