働かない権利【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
浩一(コウイチ)は最近、誰かが彼の心を読んでいるような気がしてならなかった。
オフィスでの何気ない会話が、まるで彼の考えを見透かしているかのようだった。
特に、同僚の健が突然昇進した理由がテレパシー技術のせいだと思い込んでいた。
「なんてことだ……」
浩一は不安と恐怖に駆られ、ついに精神科医の未来(ミライ)に相談することにした。
静かな診察室で、未来は優しい表情で浩一の話を聞いていた。
「浩一さん、実はあなたの考えを読んでしまったの」と未来が告げると、浩一は驚愕した。
「な、なんだって!? じゃあ、僕が会社を辞めたいと思っていることや、上司の悪口も……」
「ええ、全部知っているわ」と未来は穏やかに答えた。
顔が青ざめた浩一は、心臓が激しく鼓動するのを感じた。
「お願いだから、誰にも言わないでくれ!」
未来は微笑みを浮かべ、優しく言った。
「安心して、誰にも言わないわ。でも、これだけは知っておいて。テレパシー技術なんて存在しないのよ」
「えっ? じゃあ、どうして君は……」
未来の目が一瞬冷たく光り、静かに答えた。
「さっきの内容は、全部ここであなたが話していたことよ」
浩一はその言葉に震え上がり、テレパシーの恐怖がすべて妄想だったことを理解した。
未来の冷静な視線が、その一言にすべてを語っていた。
そして、未来は最後にこう付け加えた。
「あなたがここに来るのは、これで三度目よ。今度こそ、治療がうまくいくといいわね」