最後の乗客【ショートショート】

目覚めるたびに、”俺”はリセットされる

俺は、自分が何者なのかを知るたびに、死ぬ。
そして、新しい”俺”が目を覚ます。
その事実を、もう12回も繰り返しているらしい。

目を開けた瞬間、俺は異常に気づいた。
宇宙船〈プロメテウス〉の中。
シートに座ったままのクルー、通路に倒れた乗客たち。
「おい……冗談だろ?」
誰も動かない。
声をかけても、反応しない。
モニターが青く光る。
──異常なし。

俺は船内を歩きながら、無理やり冷静になろうとする。
・床に転がったツール
・開きっぱなしのロッカー
・テーブルに置かれたままのコーヒーカップ
「おかしい……何かが……違う」
恐怖よりも、圧倒的な違和感が脳を支配する。
俺はこの光景を、知っている気がする。

操縦席へ向かう。
シートに座るパイロットの肩を揺さぶった。
「なあ……」
次の瞬間──
バサッ!
「……っ!」
パイロットの体が、崩れた。
中身のない抜け殻のように、もろく、紙のように崩れた。
「……何だよ、これ……」
気づけば、俺の手が震えている。

視線を感じた。
壁のガラスに映る自分の姿を見た瞬間、血の気が引いた。
──知らない顔が映っていた。
「……誰だ?」
俺のはずなのに、俺じゃない。
記憶がぐらつく。
脳の中で何かが噛み合わない。
「俺は……本当に俺か?」

──ビービービー!!
船内に警報音が鳴り響く。
「警告。クローン人格の暴走を確認」
「……クローン?」
「記憶と矛盾発生。制御プログラムを再起動します」
理解が追いつかない。
「違う、違う! 俺は本物だ!!」
身体が動かない。
関節が固まり、視界が暗くなる。
“そうか”。
俺は、何度もこうして死んでいたのか。

──目を覚ますと、”俺”が死んでいた。
ガラス越しに、崩れ落ちた”俺”の体が見える。
それを見下ろしながら、俺は静かに息を吐いた。
何度目だ?
……いや、もう考えるのはやめよう。
モニターが光る。
【個体ID:C-13 起動完了】
俺の視線が、モニターの履歴をたどる。
C-12。
C-11。
C-10。
C-9……
どれも、俺だ。
オリジナルは……どこにもいない。

スピーカーからノイズ混じりの声が流れた。
「次は、お前の番だ」
俺は微笑んだ。
「……そうか」
今度は、俺が“次の俺”を消す側か。
俺は椅子に腰掛け、カウントダウンを待った。

──警報が鳴る。
シートの上で、新しい”俺”が目を覚ます。
彼は死体を見て、恐怖し、混乱し、そしてまた同じ問いを発するのだろう。
「俺は、本物か?」
モニターが静かに点滅していた。
──異常なし。
