存在エラー【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
──俺は、売られたのか?
目を開けた瞬間、そう思った。
暗い。
寒い。
そして、静かすぎる。
いや、違う。
遠くで低く響くエンジン音。
天井にうっすらと光る非常灯。
指を這わせると、鉄の床に冷たい結露が滲んでいる。
ここは……飛行機の貨物室だ。
まず、なぜここにいる?
──何が、どうして、こうなった?
頭がぼんやりする。記憶をたどる。
昨夜、酒場で知らない男と話した。
「飛行機にタダで乗る方法がある」と言われた。
冗談かと思った。
でも、目が覚めたら俺は荷物になっていた。
……まさか、本当に貨物にされたのか?
喉が渇く。寒さが骨に染みる。
とにかく、脱出しないとヤバい。
ポケットを探る。
くそ、何か使えるものは……?
そのとき、目に入った。
**「開封厳禁」**と書かれた木箱。
──中身が何であれ、今は開けるしかない。
箱の中身は……?
爪をかけ、力を込める。
バキッ。
蓋が外れる。
転がり出たのは──
酸素ボンベ。
「……助かった!」
震える手でマスクを掴む。
だが、そこで目に入った。
箱の裏側に貼られた注意書き。
「動物輸送用・睡眠ガス充填済」
──は?
眠るのは、俺か、それとも……?
ガスが肺の奥に染み込んでいく。
視界がぼやける。
けれど、その前に気づいた。
隣の檻の中に、何かがいる。
目を凝らす。
影。
鉄格子の奥、巨大な獣の輪郭。
「……嘘だろ」
眠っている。
深く、静かに。
だが、貨物室の気圧が変われば?
ガスが漏れれば?
──こいつが目を覚ますのか?
本当の「貨物」は誰か?
意識が遠のく。
壁に貼られた、もう一枚の紙が目に入る。
「この貨物は次の目的地で厳重に管理されます」
……どこだよ、それ。
獣が息をするたび、檻が軋む。
俺が眠るのが先か。
それとも、目覚めるのが先か。
──どちらが、本当の貨物なのか?