俺たちの自粛戦争【ショートショート】

自粛せよ? いや、俺たちは国家を作る——!

【俺、国家を作ります】
——人類の歴史は、戦争の歴史である。
俺は、それをたった6畳のワンルームで証明した。
自粛生活も半年を過ぎ、俺は完全に社会との接点を失っていた。
ゲームはクリア、映画は見尽くし、SNSは「#おうち時間」の投稿ばかり。
このまま俺は『ただ生きるだけの存在』になってしまうのか?
「違う……俺は、ここで国を作る!」

【俺帝国、建国】
・国名 → 俺帝国
・国旗 → A4コピー用紙にマジックで描いた謎の紋章
・通貨 → チョコレート(経済は甘くあれ)
・法律 → 「好きに生きろ」
「これで完璧だ……!」
俺はソファの上で仁王立ちし、勝利を確信した。ここは自由の国。王は俺。ルールも俺が決める。
この世界の支配から解き放たれ、俺だけの楽園が誕生した。
……はずだった。

【侵略戦争、勃発】
三日後——インターホンが鳴る。
「……?」
ドアを開けると、隣の住人がニヤニヤしながら立っていた。
「お前んとこ、税金ゼロらしいな?」
「は?」
「俺も国を作った。『俺共和国』だ。で、戦争しよう」
「いやいや待て、戦争ってどういう——」
「兵器を準備してきた」
そう言って、彼は俺の足元に黒い四角い物体を置いた。
ルンバだった。
「うちの主力戦車だ。貴様の国を蹂躙する」
「いや、掃除機じゃん!!」
「……それだけじゃないぞ?」
彼はスマホを取り出し、ボタンを押した。
その瞬間——俺のWi-Fiが切れた。
「うわああああああ!!」
「お前の通信衛星(=ルーター)は我が国のハッキング技術によって制圧された。降伏するか?」
「くっ……貴様、卑劣な手を!!」
「国家とは情報戦なのだよ、君」
必死にWi-Fiを復旧させようとする俺。しかし、なぜか復旧できない。
「ちなみに、俺のルーターのパスワードを教えてやろうか?」
「……ぐっ……!」
「合併するなら教えてやる」
俺は、震える手でメモ用紙を受け取る。そこには——。
「併合する」
こうして、俺帝国は侵略され、滅びた。短い歴史だった。

【拡大する帝国】
翌朝。
俺はソファに座り、天井を見つめた。
「……世界はどこにいても変わらないんだな」
自由を求めた俺の国は、たった三日で敗れ去った。
だが——。
「……なあ、」
ふと、隣人を見る。
「次のターゲットを探さないか?」
彼はニヤリと笑う。
「いいな、それ。お前、外交官にしてやるよ」
こうして、俺たちは歩き出す。
次なる標的は——友人の家だ!

【増殖する国家、消えた自粛】
「よぉ、久しぶり!」
「え、ちょ、お前ら、なんで来てんの?」
「お前の家も、俺らの帝国に併合しようと思ってな!」
「いや、自粛しろよ!!!」
気づけば、俺と隣人は次々と「領土」を拡大し、支配下を増やしていった。
どの家も「国家」になり、戦争し、合併し……。
俺たちは互いの家を行き来し、毎晩集まり、騒ぎ、飲み、笑っていた。
——あれ? 俺たち、何やってんだ?
これって、まさか……。
「ただの普通の生活じゃね?」
自粛生活の果てに、俺たちは「独立」どころか、気づかぬうちに「共存」に戻っていた。
人間、やっぱり孤独には耐えられないらしい。
