成功ループ【ショートショート】

成功したければ、売る側に回れ

「成功する人間と、そうでない人間の違いは何か?」
タカシは、考えた。
考えても、考えても、答えは出ない。
気がつけば三十路。
職場では歯車、給料は雀の涙、恋人など影も形もない。
ある夜、タカシは本屋の棚の前で立ち尽くしていた。
手に取ったのは、一冊の本。
『究極の成功法則』
ぱらり、とページをめくる。
「成功者の共通点を見つけ、それを真似しろ!」
「なるほど、シンプルだ」
タカシは、決意した。
この本に書かれた通りに生きれば、俺は変われるのではないか?
そして、彼の壮大な実験が始まった。
──この時の彼はまだ知らない。
自分が、思いもよらぬ結末に向かっていることを。

成功法則1:成功者の朝は早い
午前4時55分。
タカシは目覚まし時計を凝視する。
「……早すぎる」
布団のぬくもりを振り切り、重い体を起こした。
シャワーを浴びる。
ストレッチをする。
「成功者っぽい」と思いながらブラックコーヒーをすする。
──その日、仕事中に猛烈な睡魔に襲われた。
結果:減給3万円。
タカシは天井を見つめた。
「……成功って、こんな感じだっけ?」

成功法則2:鍛えよ
成功者は皆、体を鍛えている。
タカシはスポーツジムの入会書にサインした。
ダンベルを持ち上げる。
重い。
そっと、床に戻した。
トレーナーが「無理せず、少しずつ続けましょう」と言う。
タカシは深くうなずき、プロテインだけ飲んで帰宅した。
そして、次の日も、また次の日も──ジムには行かなかった。
だが、月会費だけは律儀に引き落とされていた。
「……筋肉より、ジムが儲かってるな?」
彼の心に、小さな疑念が生まれる。

成功法則その3:見た目を整えよ
「成功者は、見た目が大事」
タカシはスーツを新調した。
鏡の前でポーズを決める。
──完璧なビジネスマン。
──ただし、カード残高は 残り382円。
「え?」
タカシは明細を二度見した。
「……これ、成功どころか、詰んでない?」
彼は初めて、この実験の先行きを不安に思った。

成功法則その4:成功者に会え
「成功者に直接話を聞こう」
彼はネットで見つけた大富豪のセミナーに参加した。
参加費:50,000円
(貯金を崩した)
煌びやかな会場。
壇上には、テレビでも見るような実業家。
タカシは勇気を振り絞り、質問した。
「成功の秘訣を教えてください!」
大富豪は、笑った。
「簡単さ」
「成功哲学の本を書くことだよ」
「……え?」
「みんな『成功の法則』を知りたがる。でも、本当に成功するのは、それを売る奴さ」
「そ、そんな……」
「それにさ──」
大富豪は、テーブルの上の本を指さした。
『究極の成功法則』
それは、タカシが最初に買った本と、まったく同じものだった。
タカシの脳内に、ある言葉が浮かんだ。
──「騙される側から、騙す側へ」

タカシは、悟った。
成功とは、「売る側」に立つこと。
彼は翌日、本を書き始めた。
タイトルは──。
『なぜあなたは成功できないのか? その99の理由』
数ヶ月後、それはベストセラーとなり、
タカシはついに成功者になった。
……彼の本を読んだ、新たな「成功志願者」たちを犠牲にして。
