引き寄せられたのは孤独【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
毎朝の通勤電車。
今日も変わらぬ風景に、僕は退屈を感じていた。
だが、目の前に座った女性が目を引いた。
短めの髪に、落ち着いた服装。
彼女は小さなノートに何かを書き込んでいた。
僕は好奇心に負け、ちらっと覗いてみた。
「今日は晴れ。電車で素敵な出会いがあるといいな」
驚いて顔を上げると、彼女が微笑んだ。
心臓が一瞬止まりそうになりながらも、僕は思わず口を開いた。
「それ、日記ですか?」
「ええ、毎日少しずつ書いているんです」と彼女が答える。
「あなたも書くの?」
「いや、書くことがなくて。毎日同じことの繰り返しで」
彼女は笑いながらノートを差し出す。
「今日から変わるかもしれませんよ。ほら、ここに何か書いてみて」
その瞬間、心に小さな火が灯った。
電車が次の駅に止まり、彼女が立ち上がる。
僕はノートにこう書いた。
「今日、新しい友達ができた。これからどんな出会いが待っているだろう」
彼女が振り返り、ドアが閉まる前に微笑んだ。
「次はどんな話を書きますか?」
電車が動き出し、僕は新しい日々の予感に胸を弾ませた。
日常が、少しずつ特別なものに変わっていく気がした。