消えた影の絵画【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
カトウは効率を愛していた。
いや、愛していたのではない。
効率に取り憑かれていたのだ。
朝はスクワットしながら歯を磨き、シャワーを浴びながら会議資料を確認する。
「時間は有限、無駄は罪だ」
それが彼の信念だった。
ある日、彼はスーパーの棚の前で止まった。
30種類のシリアルが並んでいる。
「どれが最適解だ?」
頭の中で計算が始まる。
選べば選ぶほど、答えが見えなくなる。
効率を追い求めた男が、最も非効率な泥沼に沈んでいく。
彼の視界はぼやけ、膝が震えた。
「選択肢が多すぎる…」
棚の前で崩れ落ちる彼に、周囲の客が駆け寄る。
その場で誰かが救急車を呼ぶ声が聞こえた。
病院のベッドで目を覚ましたカトウは、自分の腕に巻かれた点滴を見つめた。
「この時間は…効率的なのか?」
虚空に向かって呟く彼に、看護師が一言つぶやいた。
「休むのも効率のうちですよ」
その言葉が彼の耳に届いたかどうかは、誰にも分からない。