自作ゲームに囚われて【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
タナカは、会議室の隅で煙草を咥えていた。
「待ち時間が長すぎる。靴底が薄くなった」
「速すぎて耳がおかしくなった気がする」
「ボタンを押す間に、人生の選択ミスを思い出した」
「選択ミスって、それはエレベーターのせいじゃないだろう…」
タナカは呟き、苦笑する。
しかし、リストに並ぶ苦情の数は笑えるものではなかった。
特に『ムダ』という言葉に彼は過剰に反応した。
『効率の鬼』と呼ばれた彼にとって、それは存在価値を否定されるに等しかった。
ホワイトボードに大きく書いた文字が目に入る。
『待ち時間ゼロ』
「次はこれだ」
彼は煙草を灰皿に押し付け、スタッフに向かって宣言した。
「時間を奪わないエレベーターを作る。それが未来だ」
スタッフたちは拍手したが、その目はどこか怯えていた。
数ヶ月後、タナカはついに『未来型エレベーター』を完成させた。
その中核を担うのは、個人行動を予測するAIシステムだった。
AIの仕組み
デモ会場での試運転は大成功だった。
見物人はその革新性に驚き、タナカを称賛した。
「これで、待ち時間もイライラも過去のものになる」
タナカは胸を張った。
だが、現実は想定外の事態を次々と生んだ。
AIが引き起こした混乱
タナカは、新聞の見出しを見て頭を抱えた。
『効率化の鬼、時代を迷走させる』
会議室で、タナカはホワイトボードを見つめていた。
そこには彼が数分前に書き加えた新たな言葉がある。
『完璧な効率は幻想』
彼は最後の一本になった煙草に火をつけ、灰皿に視線を落とした。
「便利にしたつもりが、誰も満足しないんだから、不思議なもんだよな」
吐き出した煙が薄く広がる。
「結局、俺が作ったのは“最短で文句を言える未来”か」
タナカは煙草を灰皿に押しつけ、立ち上がった。
「まあ、人が文句を言ううちは、未来も悪くないってことかもな」