夢見るマシン【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
ヨシダは、朝の会議室で上司に呼び出された。
「お前、最近の若い社員たちに手本を示せる立場なんだからな。ワークライフバランス、ちゃんとやれよ」
普段なら右から左へ聞き流す言葉だが、この日は違った。
最近のヨシダは、家庭からの不満や部下たちの陰口に挟まれ、心がすり減っていた。
「見本か……」
ヨシダは俯きながら呟いた。
だが、その夜、一冊の本が目に留まった。
タイトルは『理想の均衡を目指すための30日プラン』
「これだ!」
翌日から、彼の生活は劇的に変わった。
彼の姿は瞬く間に職場の話題となった。
「ヨシダさん、最近どうしちゃったんですかね?」
「いや、あれが『バランス』らしいよ」
だが、その陰で同僚たちは頭を抱えていた。
「この報告書、誰が仕上げるんだ?」
「ヨシダさん、また瞑想に行ってていないよ……」
ある日の夕方、上司に呼び出された。
「ヨシダ、お前のその『バランス』、成果は出てるのか?」
「ええ、もちろん出てます!」
彼は胸を張った。
「僕がこれだけ充実してるんですから、チーム全体の士気も上がるはずです!」
上司は深いため息をついた。
「……そうか、それでチームの仕事は誰がするんだ?」
数週間後の社内表彰式。
ヨシダは壇上で「最優秀バランス賞」を受賞した。
拍手が鳴り響く中、彼は満足げに微笑む。
だが翌朝、机の上に一通の封筒が置かれていた。
「早期退職プログラムのご案内」
封筒を手に取ったヨシダは、一瞬だけ顔を曇らせた。
しかしすぐに笑みを浮かべ、空を見上げた。
「退職もまた、バランスの一部か……」
その夜、彼は新しいスケジュール帳に『フリーランスになるための30日プラン』を書き込んでいた。