小噺ショート
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理想の均衡【ショートショート】

佐藤直哉(Naoya sato-)
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理想を追った均衡、辿り着いた崩壊

ヨシダは、朝の会議室で上司に呼び出された。
「お前、最近の若い社員たちに手本を示せる立場なんだからな。ワークライフバランス、ちゃんとやれよ」

普段なら右から左へ聞き流す言葉だが、この日は違った。
最近のヨシダは、家庭からの不満や部下たちの陰口に挟まれ、心がすり減っていた。
「見本か……」
ヨシダは俯きながら呟いた。

だが、その夜、一冊の本が目に留まった。
タイトルは『理想の均衡を目指すための30日プラン』
「これだ!」


翌日から、彼の生活は劇的に変わった。

  • : 窓辺でヨガ、ハーブティーを淹れながら英語のポッドキャストを聞く。
  • : 職場近くの公園で深呼吸。スマホは完全オフ。
  • : 家庭菜園の手入れをしながら「これぞバランス」と微笑む。

彼の姿は瞬く間に職場の話題となった。
「ヨシダさん、最近どうしちゃったんですかね?」
「いや、あれが『バランス』らしいよ」

だが、その陰で同僚たちは頭を抱えていた。
「この報告書、誰が仕上げるんだ?」
「ヨシダさん、また瞑想に行ってていないよ……」


ある日の夕方、上司に呼び出された。
「ヨシダ、お前のその『バランス』、成果は出てるのか?」
「ええ、もちろん出てます!」
彼は胸を張った。
「僕がこれだけ充実してるんですから、チーム全体の士気も上がるはずです!」

上司は深いため息をついた。
「……そうか、それでチームの仕事は誰がするんだ?」


数週間後の社内表彰式。
ヨシダは壇上で「最優秀バランス賞」を受賞した。
拍手が鳴り響く中、彼は満足げに微笑む。
だが翌朝、机の上に一通の封筒が置かれていた。

「早期退職プログラムのご案内」

封筒を手に取ったヨシダは、一瞬だけ顔を曇らせた。
しかしすぐに笑みを浮かべ、空を見上げた。
「退職もまた、バランスの一部か……」

その夜、彼は新しいスケジュール帳に『フリーランスになるための30日プラン』を書き込んでいた。

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佐藤直哉(Naoya sato-)
佐藤直哉(Naoya sato-)
ブロガー/小説家
小説を書いていたはずが、いつの間にか「調べたこと」や「感じた違和感」を残しておきたくなりました。
このサイトでは、歴史の中に埋もれた謎や、日常でふと引っかかる“気になる話”をもとに、雑学記事、4コマ漫画、風刺ショートショートとして発信しています。
テーマはちょっと真面目。
でも、語り口はすこし皮肉で、たまにユーモア。
「なんかどうでもよさそうなのに、気になる」
──そんな話を集めて、掘って、遊んでいます。
読んだ人の中に“ひとつくらい、誰かに話したくなる話”が残れば嬉しく思います。
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