家事戦争【ショートショート】
家事のフェア、戦場で決着
結婚五年目の夜、妻が静かに口を開いた。
「最近、私だけが家事をしてると思わない?」
ソファでリモコンを握りしめた旦那は、テレビから目を離さず答えた。
「いや、俺もやってるだろ。昨日、ゴミ出したし」
その一言で妻は手を止め、旦那をじっと見つめた。
「それでフェアだと思う?」
旦那は肩をすくめて笑った。
「じゃあ、契約書でも作るか」
翌日、旦那は自信満々で手書きの契約書を持ってきた。
契約内容
- 妻:料理、掃除、洗濯
- 旦那:ゴミ出し
「これで完璧だろ?」
胸を張る旦那に、妻は無表情のまま契約書を眺めた。
「……なるほどね」
それだけ言うと、妻は立ち上がり、旦那の顔をじっと見たまま部屋を出て行った。
その夜、妻は新しい契約書を持ってリビングに戻った。
新ルール
- 家事全般:旦那
- 妻:監視役
旦那は契約書を一瞥し、声を荒らげた。
「これのどこがフェアだよ!」
妻はタブレットを取り出し、無言で画面を旦那に見せた。
そこには家事に費やした累積時間のデータが表示されていた。
「これが証拠。私が1週間に家事にかける平均時間は15時間」
妻は冷静に続ける。
「あなたのゴミ出しは30分。これまでの5年間、私が圧倒的に負担してきたのは明らかでしょ?」
旦那はタブレットの画面をじっと見つめた。
言い返そうと口を開いたが、言葉が出てこない。
妻は微笑みながら言った。
「だから、次の5年間はあなたが家事を全部やるの。そうすれば、これまでの負担が帳消しになる。フェアでしょ?」
旦那はタブレットをそっと置き、渋い顔で呟いた。
「……数字で来るなんて、卑怯だ」
妻は肩をすくめて答えた。
「フェアが一番よ」
翌朝、旦那はキッチンで奮闘していた。
- フライパンの中で焦げる卵
- 床に散らばった調味料
- シンクに山積みの洗い物
妻はカウンター越しにコーヒーを飲みながらその光景を見つめていた。
「その卵、焦げすぎてない?」
旦那はフライパンを見つめ、真剣な顔で答えた。
「これが新しいメニュー『黒の美学』だ」
妻はコーヒーを飲みながら目を細めた。
「なら、私はゴミ出しのプロに転職しようかしら」
旦那は床に転がった瓶を拾いながら苦笑した。
「じゃあ、俺はゴミ出しのCEOになるよ。社員募集中だ」
妻はカップを置き、静かに笑った。