続ける理由なんて、ない【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
「ネジ締め、ネジ締め、またネジ締め……」
ジョンは呟きながら手を動かしていた。
流れてくるのは、無限に続くベルトコンベアの部品たち。
それ以外に見るものも、することもない。
「まるで俺の人生みたいだな」
この街では、退屈は禁物だった。
「退屈で死ぬ人間が増えている」というニュースが連日報じられ、街の労働者たちは戦々恐々としていた。
何しろ、実際にスミスがそうやって死んだからだ。
ジョンの同僚だったスミスは、あの日、突然ベルトコンベアの前で崩れ落ちた。
顔には驚きも怒りもない。
ただ静かに、虚無そのものの表情だった。
「退屈で死ぬなんて、本当にあるのか?」
上司がため息交じりに言った時、ジョンは密かに決意した。
「俺もこうなるくらいなら、全力で退屈をぶっ壊してやる!」
次の日から、ジョンは奇妙な行動を始めた。
ネジを締めながら、歌い、リズムを取る。
次に部品を叩き、コンベアの音に合わせて即興演奏まで始めたのだ。
「何してんだよ、ジョン?」
「ただ楽しく仕事してるだけさ!」
周囲は最初呆れたが、やがて誰かが笑い出した。
そしてまた一人、また一人…。
気づけば工場全体がリズムに合わせて体を揺らし、笑顔が広がっていた。
数週間後、ジョンは工場長に呼び出された。
「君のやり方、効果は絶大だよ。生産性が50%アップした。でも困ったことがある」
「何です?」
「楽しすぎて辞める社員が続出してるんだ。もっと自由な人生を追い求めたい、ってね」
ジョンは肩をすくめて笑った。
「それなら、退屈で死ぬよりずっと良いことじゃないですか?」
そして彼もまた、その日を最後に工場を去った。
だが翌日、新聞の見出しにはこう書かれていた――
『ジョン、退職後の退屈で死亡』