完璧な仮面【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
記者が工場見学に訪れると、広大なフロアでロボットたちが黙々と働いていた。
作業アームは規則正しく動き、ベルトコンベアは止まることなく流れ続ける。
天井には巨大なモニターが吊り下げられ、こう表示されている。
「目標達成まであと5万ユニット」
記者は感心しながら工場長に尋ねた。
「すごいですね!これだけの生産力をどうやって維持しているんですか?」
工場長は疲れたような笑みを浮かべて答えた。
「簡単ですよ。うちの労働者たちが昼夜問わず頑張ってくれるおかげです」
記者は首を傾げた。
「でも、ここは完全自動化されたロボット工場ですよね?」
工場長は大きく頷いた。
「その通り!だから素晴らしい!」
「まさに理想の労働者でしょう?」
そのとき、フロアの奥から金属が擦れる不快な音が響いた。
一台のアームが停止し、先端が不自然な角度で歪んでいる。
それに連鎖するようにライン全体が止まり、赤い警告ランプが点滅を始めた。
工場長は深い溜息をついて言った。
「ただし、唯一の欠点がありましてね…」
記者が尋ねる。
「欠点ですか?」
工場長はランプを指差しながら苦笑した。
「壊れるんです。しかも、修理代が人件費より高い。ひょっとしたら、人間のほうが安上がりだったかもしれませんね」
記者は苦笑いしながらペンを止め、つぶやいた。
「効率化って、本当に効率的なんでしょうか?」