小噺ショート
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演技の代償【ショートショート】

佐藤直哉(Naoya sato-)
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演技は見事、でも嘘は通用しない

男はカウンターで酒を飲みながら、隣の客に話しかけた。
「俺、どんな役だって完璧にこなせるんだぜ」

隣の客が興味津々で聞き返す。
「例えば?」

男はポケットから警察バッジを取り出し、
堂々と掲げてみせた。

「例えば、刑事役、とかな」

低い声で一言。
隣の客は驚き、背筋を伸ばす。
だが、男はニヤリと笑い、付け加えた。

「もっとも、これ偽物だけどな!」

客は苦笑いしながら答える。
「なんだ、ビビらせるなよ」

男はさらに身を乗り出し、小声でこう続けた。
「けどな、このバッジと俺の演技のおかげで、
このバーで飲み代を払ったことは一度もない」

客は感心したようにうなずいた。
「すごいな……本物の刑事も顔負けだ」

その時、カウンターの奥からバーテンダーが口を開いた。
「それで、昨日飲み逃げしたお前を本物の刑事が探してるんだが、
今日はどうするつもりだ?」

男の笑顔が凍りついた。
手の中のカクテルグラスが音を立てて揺れた。

ABOUT ME
佐藤直哉(Naoya sato-)
佐藤直哉(Naoya sato-)
ブロガー/小説家
小説を書いていたはずが、いつの間にか「調べたこと」や「感じた違和感」を残しておきたくなりました。
このサイトでは、歴史の中に埋もれた謎や、日常でふと引っかかる“気になる話”をもとに、雑学記事、4コマ漫画、風刺ショートショートとして発信しています。
テーマはちょっと真面目。
でも、語り口はすこし皮肉で、たまにユーモア。
「なんかどうでもよさそうなのに、気になる」
──そんな話を集めて、掘って、遊んでいます。
読んだ人の中に“ひとつくらい、誰かに話したくなる話”が残れば嬉しく思います。
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