天才の正体【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
スポーツ大会の表彰式が終わり、選手たちはようやく控え室で一息ついた。
そこに新聞記者が遅れてやって来て、「おめでとうございます!来年も期待していますよ!」とカメラを向ける。
選手の一人は微笑みながら答えた。
「ありがとうございます。来年こそ、試合そのものを取材してもらえると嬉しいです」
記者は一瞬戸惑ったが、笑顔を作り直して言った。
「もちろんです!試合も取材しますとも!」
そして、シャッターを切る。
しかし、選手が続けて言った。
「でも、今年の試合の時は誰もいらっしゃらなかったですよね?」
記者は一瞬視線を逸らし、答えに詰まった。
そして、笑顔を引っ込めて無言で立ち去った。
静かな控え室で、別の選手が小さく苦笑して言った。
「来年も…表彰式だけで注目されるんだろうな」
隣の選手も肩をすくめて返す。
「いや、来年は表彰式さえ来ないんじゃないか?」
彼らがその場で笑い出したその時、ふいに天井のスピーカーから場内アナウンスが流れた。
「ただいまより、表彰式の撮影は終了しました。選手の皆様、ご退場をお願いします」
彼らはお互いに無言で見つめ合い、最後の笑いはいつしか消えていた。