未来予測装置【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
古びたアパートの一室で、僕は思わぬルームメイトと暮らし始めた。
深夜になると、部屋の隅から低いビートが聞こえてくる。
誰もいないはずの暗闇に向かって、ぼんやりと耳を澄ませる。
「またか…」と思いつつも、彼の規則正しいリズムが不思議と心に沁みてくるのだ。
ある晩、どうしても眠れず、僕はとうとう口を開いた。
「頼む、少し静かにしてくれないか?」
その瞬間、音はピタリと止まり、まるで風に溶けるように声が聞こえた。
「…なら、君が続けてくれないか。僕が生きていた頃、夢見ていたことなんだ」
言葉の意味が胸に染みる。
夢の続きを誰かに託して去る。
それが彼の未練なのだと理解した僕は、無意識のうちにリズムを刻み始めていた。
指が勝手に動き、音もないのにリズムが流れ出す。
そして次第に、僕自身がそのリズムに浸食されていくのを感じた。
それから数週間、深夜になると僕は無意識にビートを刻んでいる自分に気づく。
彼の存在が薄れていった後も、彼のリズムは僕の体に染み込み、消えることはなかった。
夜の静寂の中で、彼の夢は僕の中で今も響き続けている。