話し過ぎた報い【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
「休憩?そんな余裕ないんだよ」と、店長は笑顔で言い放つ。
イトウは広告に惹かれてこのバイトを始めたが、現実は毎日の残業とクレーム対応に追われるだけで、体力も気力もすり減っていた。
ある夜、彼はとうとう店長にぼそりと尋ねた。
「店長、この店って、なんでこんなに忙しいんですか?」
店長はにやりと笑い「それだけお客さんが来てるってことだよ。喜べ」と一言。
イトウは苦笑を浮かべながら心の中でつぶやいた。
「なら、店を閉めたら、俺たちも楽になるかもな」
翌日、イトウが店に向かうと、入り口には「本日限りで閉店します」の貼り紙が。
まさかの事態に目を疑いつつも、少し肩の荷が下りる思いがしたが、すぐに現実が冷たく彼を包み込む。
「これからの生活、どうするんだ…?」
その時、背後から店長が飄々と現れて言った。
「どうだ?これで本当に楽になったろ?」
イトウは言葉を失い、ようやくしぼり出した。
「いや、まさか…本当に閉めるなんて。家賃だって払えなくなるじゃないですか…」
店長は肩をすくめ「お前がそう言ったんだろ?お前も覚悟の上かと思ってな」と、涼しい顔でその場を去った。
イトウは立ち尽くし、店長の後ろ姿を見送りながら考えた。
自分の何気ない一言が、思わぬ結末を引き起こしたという現実が重くのしかかる。
冗談が現実になる、そんな悪夢のような余韻を残したまま、イトウの頭には一つの言葉が響いていた。
「俺が…引き金を引いたのか…?」