記憶の移植【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
ムラカミはテレビの災害ニュースを見て、まるで映画のヒーローのように「俺が行かなきゃ誰が行く!」と大げさに拳を振り上げた。
自分が困っている人々を救う救世主になれるという高揚感に包まれ、即座にボランティアに志願した。
そして現地に着いたムラカミが待ち受けていたのは…救援物資の仕分け作業。
「ふっ…俺がいれば何だって片付くさ!」と、汗を流しながら段ボールを力強く運び、まるで世界を救っているかのような誇らしげな顔をしている。
「こんな時こそ助け合いが大事だよな!」と、隣で作業している若者に自信満々に話しかけた。
若者はちょっと困惑しながら笑顔を見せた。
「そうですね…でも、ここ災害地じゃないんですよ」
ムラカミは手を止めて、キョトンとした。
「え?じゃあ…ここは?」
若者が軽く肩をすくめて言った。
「ただの物流倉庫です。余った物資をここで整理して、近くのスーパーに流してるだけなんですよ。まあ、言ってみれば大きな棚卸しみたいなものですね」
ムラカミの目から急速に輝きが消えたが、すぐにニヤリと笑い返した。
「つまり…俺は在庫整理の救世主ってわけだな!」
彼の誇らしげな顔はそのままだが、周囲の誰もが、ちょっと引き気味に彼を見ていた。
若者は思わず吹き出しながら「まあ、あなたがそう思うなら…きっとそうなんでしょうね」と、肩をすくめた。