石板に刻まれたぼやき【ショートショート】
千年たっても、文句は変わらない
古代遺跡から発見された謎の石板。
研究チームはその解読に挑んでいたが、中心にいるリーダーの表情は険しいままだった。
彼の名はクロカワ。
長年の経験と豊富な知識を持つが、時折、ぼそりとこう言うのが癖になっている。
「これだから最近の若い者は…、考えが甘いんだ」
今日も、若手メンバーが新たな解読の仮説を熱心に説明するたびに、クロカワは静かにため息をつき、その言葉を口にした。
彼のぼやきに若手たちは最初こそ困惑していたが、今では「これがクロカワ流の褒め言葉だ」と理解していた。
しかし、今回の石板の解読はそんな彼のぼやきが出ないほど厄介だった。
何度も何度も試みたが、どれも意味不明な文章にしかならない。
チームの疲労感がピークに達しようとする中、ついに解読の鍵が見つかった。
だが、その内容は誰もが目を疑うようなもので、発表の前日、クロカワは深夜まで一人で考え込んでいた。
発表の日がやってきた。
報道陣が詰めかけ、壇上に立つクロカワは微妙に口を結んでいた。
緊張の色が見えるのは珍しい。
司会者が「それでは、発見された石板の内容について発表をお願いします!」と声をかけると、クロカワはゆっくりとマイクを握った。
「…結論から言いますと、この石板に刻まれていたのは、古代人の愚痴です」
会場がざわつく。
記者たちは困惑し、耳を疑った。
とうとう一人の記者が勢いよく質問した。
「愚痴?一体、どういう内容なんですか?」
クロカワは一瞬、ためらいながらも微笑んで、こう言った。
「要するに、こう書かれていました。『これだから最近の若い者は、全然礼儀がなっとらん!』」
会場は一瞬の静寂に包まれたが、すぐに笑いが広がった。
しかし、笑いが収まると、クロカワは穏やかな目で若手メンバーを見やった。
彼の目には少しの寂しさが浮かんでいるように見えた。
「変わらないんですよね、時代が変わっても。古代の人間も、現代の我々も、同じように愚痴をこぼしながら、それでも何かを伝えたがる。だからこそ、こうやって解読できたんです」
彼の言葉に、若手たちは黙ってうなずいた。
それはただのぼやきではなく、世代を超えて繋がるメッセージだった。
クロカワは再びマイクを手に取り、少しだけ声を落として語った。
「これだから最近の若い者は…と思っていたが、実は私たちもそう言われてきたんですよね。時代が巡り、同じことが繰り返される。その繰り返しが、次の時代を支えているんだ」
その言葉に、会場の空気が少し引き締まった。
若手メンバーたちは、クロカワのぼやきに隠された本当の意味を初めて知ったのだ。
時代が変わっても、人間は変わらない。
しかし、それこそが変わらぬ強さでもあるのだと。
クロカワは最後に小さく笑い、いつものようにぼそりとつぶやいた。
「これだから最近の若い者は…まあ、期待しているからこそ、言いたくなるんですけどね」