ブランドの魔法【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
「今日から『本音モード』が有効になっています」
上司のその一言で、画面に次々と本音が表示されるようになった。
「会議が無駄に長い」
「あの資料、コピーしただけ」
「正直、もう限界だ」
誰もが予想していたが、見たくなかった現実だ。
しかし、上司の画面に映った言葉が全てを凍りつかせた。
「お前ら全員、もう必要ない」
一瞬の静寂の後、会議は強制終了。
「本音モード」は即座に削除された。
その夜、システムにアップデート通知が表示される。
「新機能『建前モード』を導入しました。気持ちのいいコミュニケーションをお楽しみください」
翌朝、会議が始まると、全員が完璧な笑顔で画面に映っていた。
「本音モード」など、最初から存在しなかったかのように。
いや、それこそが本音なのだと、誰も言わなかっただけだ。