イメージ戦略【ショートショート】
未来を救う靴、その背後で失われる信頼
「皆さん、見てください!」
ステージの上でCEOは、背後に大きなスクリーンを従えて満面の笑みを浮かべていた。
手に掲げるのは、真っ白な靴――その名も『エコ・フューチャーシューズ』だ。
CEOの声は、通販番組のホストのようにテンションが高い。
「この靴、ただの靴じゃないんです!」
彼は靴を回して観客に向けて見せつける。
「完全リサイクル素材を使用し、環境に配慮しつつ、スタイリッシュなデザインを実現しました。見てください、この光沢!街を歩けば、まるであなたが未来そのものを履いているかのように感じることでしょう!」
スクリーンには、靴が回転しながら映し出され、まるでそれ自体が未来を象徴しているかのような演出が続く。
だが、観客はどこか冷静で、反応が薄い。
「しかも、この靴は驚くほど軽い!重さはわずか300グラム!片手で楽々持ち上げられるんです!」
CEOは靴を手の中でひょいと持ち上げ、空中でキャッチしてみせたが、拍手はまばらだ。
彼は気にすることなく話を続ける。
「そして、何よりも重要なのは、あなたがこの靴を履くことで地球環境にも貢献できるということです!未来を救う靴――それが『エコ・フューチャーシューズ』です!」
カメラのフラッシュは飛び交っているが、観客は相変わらず静かだ。
CEOはそれにも気づかず、自信満々な表情でステージを降りた。
その夜、CEOは重役たちと会議室に集まっていた。
「社長、大変です!」
スタッフが慌てて駆け込んできた。
彼はスマホを手にしており、画面をCEOに見せた。
「SNSで我々の工場の劣悪な労働環境が暴露されています!」
CEOは眉をひそめてスマホをのぞき込む。
そこには「地球には優しいが、労働者には冷酷な靴」というタイトルと、工場の劣悪な作業環境を映し出した写真が並んでいた。
投稿は次々に拡散され、ブランドの評判は急速に下がっていった。
「なんだこれは!」
CEOはスマホを乱暴に机に置き、重役たちを見渡した。
「どうするんだ?」
重役たちは顔を見合わせ、誰も具体的な解決策を提示できない。
「謝罪文を出すべきだと思います…」
「それだけで済むか?消費者はもっと厳しいぞ…」
「しかし、何もしないわけにもいかない。ブランドが崩壊してしまう」
翌日、企業は「労働環境の改善に真剣に取り組む」との声明を発表したが、SNSでの反応は冷たかった。
「またかよ、口だけか?」といったコメントが溢れ、ブランドへの信頼は見る見るうちに消えていった。
会議室が沈黙する中、CEOは冷静な顔でポツリとつぶやいた。
「まぁ、結局イメージがすべてだよな。見た目が良ければ、何とかなるさ」
重役たちは黙り込み、無言でうなずくしかなかった。
突然、CEOは顔を輝かせて椅子から立ち上がった。
「そうだ!次はもっと派手にしよう!『ギャラクシー・ステップス』だ!この靴は、地球だけじゃなく、宇宙も救えるんだ。ブラックホールをモチーフにしたデザインで、未来も宇宙も俺たちのものにしようじゃないか!」
CEOは意気揚々と話し始め、デザイナーに連絡する準備を整えた。
重役の一人がため息混じりに言った。
「…で、もし宇宙人からクレームが来たらどうします?」
CEOは自信満々に答えた。
「クレーム?問題ないさ。クレームだって、うまく使えば立派なマーケティングだろう?」