世代を越えて【ショートショート】
教わったのはSNSの使い方だけじゃなかった
集会所に集まる若者たちは、いつものようにスマホを片手に持っていた。
おじいさんが語る昔話に耳を傾けながらも、彼らの意識はほとんどスマホに向けられている。
「俺が若い頃は、なんでも手でやらなきゃいけなかったんだ。今みたいに、簡単に情報を手に入れられる時代じゃなかったからな」と、おじいさんは微笑みながら話し始めた。
「手作業って、今じゃ考えられないっすね」と、一人の若者がスマホを見たまま返事をする。
おじいさんは静かに笑った。
「それでも、その時代には、その時代なりの良さがあった。隣近所で助け合って、生きていたんだよ」
「でも、今はネットで全部繋がれるから、そんなことしなくてもいいんですよ」と、別の若者が軽く言った。
「そうか、ネットか…。俺もそのネットってやつをやってみたい。誰か教えてくれんか?」
若者たちは一瞬顔を見合わせた。
「おじいさんがネットを?」
おじいさんは真剣な表情で頷いた。
「ああ、時代に遅れちゃならんからな。今の世代を知るためにも、ネットをやってみたい」
リーダー格の青年が軽く笑って言った。
「じゃあ、俺たちが教えますよ。でも、代わりに昔の話、もっと聞かせてください」
おじいさんは微笑んで頷いた。
「それでいい。お互いに学び合おうじゃないか」
その晩、おじいさんのSNSアカウント「挑戦する爺」が誕生した。
彼の投稿はすぐに若者たちの間で話題になり、彼の行動は彼らに少しずつ影響を与えていった。
投稿内容はシンプルだったが、その誠実さと真剣さが彼らの心に響いていた。
数日後、若者たちは集会所に集まったが、おじいさんの姿はなかった。
「今日は来ないのかな?」と、一人が首をかしげた。
「ちょっと、SNS見てみよう」と、別の若者がスマホを取り出し、おじいさんのアカウントを確認した。
そこには最後の投稿が残っていた。
「お前たちに未来を託す。俺はここまでだが、繋がりは続いていく。次はお前たちの番だ」
その言葉を見た若者たちは、ふと無言になった。
「…なんか心配だな。おじいさん、急に投稿が止まるなんて」と、一人がつぶやいた。
「おじいさんの家、確かこの近くじゃなかったか?」と、リーダー格の青年が言い、皆でおじいさんの家を訪れることにした。
ドアは閉まっており、中からの音もなく、ひっそりとしている。
窓から見える室内には、彼のスマホが青白く光っていた。
「本当に、もう来ないのかもしれないな…」と、誰かが呟いた。
その瞬間、若者たちの胸に、おじいさんの最後の言葉が深く刻まれた。
「繋がり続けろ」というメッセージは、単なる言葉ではなく、彼らにとって次の行動を促す道しるべとなっていた。
「俺たちも、やるしかないな」とリーダーがつぶやく。
若者たちは静かに頷き、それぞれがスマホを手に取った。
おじいさんの教えは、ただの昔話ではなく、彼らの未来に向けた確かな道しるべとなった。