最も不幸せな国【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
「社長!時代はAIです!これを導入すれば、うちもグローバルで大成功ですって!」
ヤマモトは満面の笑みを浮かべてナカジマに詰め寄った。
彼の夢はすでに現実を飛び越えていた。
ナカジマは手を止めて、彼をじっと見つめる。
「グローバルね…。俺たち、トラクターの部品作ってんだぞ。それを世界中に売るってか?」
「もちろんです!AIを使えば、農家が世界中で喜ぶはずです!」
ヤマモトは目を輝かせ、熱意がはち切れそうだ。
ナカジマはふと肩をすくめた。
「で、AIに全部任せたら、俺は何すりゃいいんだ?昼寝でもしてろって?」
「そうです!社長が昼寝してる間にAIが稼いでくれるんです!」
ヤマモトは親指を立て、さらに得意気だ。
ナカジマは小さく笑った。
「お前、昼寝を推奨する社員なんて面白ぇな」
半年後、農家は最新のAIトラクターを導入し、ナカジマの工場は静かにその幕を閉じた。
「昼寝どころか、ずっとお休みってことか」
ナカジマの呟きは工場内に消えた。
だが、ヤマモトはすでに次の工場で、「AIで未来を変えましょう!」と、同じように夢を語り続けていた。