記憶の移植【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
「次の方、どうぞ!」
看護師の元気すぎる声に、俺はげんなりしながら立ち上がった。
無料診療の日だってのに、この胃の痛みを我慢しながら順番待ち。
はぁ、病院ってのは、どこも同じだな。
病人のことなんて、誰も気にしちゃいない。
やっと呼ばれて、診察室に入った俺を待っていたのは…冷たい無表情のAIドクター。
まじか、こいつが俺を診るのか?
「症状をお聞かせください」
機械的な声が響く。
「ああ、胃が痛ぇんだよ。待ってる間にイライラが増してな、もしかしてストレスかもな」
俺がそう言うと、AIドクターはただ「公平な医療を提供します」と繰り返すだけ。
「そりゃありがたいこったな。お前、俺がどんなに貧乏だろうが、金持ちだろうが、同じように診てくれるんだもんな。まったく平等だな。いや、平等に冷たいってのが笑えるけどさ」
俺は自嘲気味に笑ってしまった。
こいつには何の感情もない。
人間味もない。
だから、平等に感じられる。
そりゃそうだ。
誰に対しても同じ対応しかできないんだから。
診察が終わる頃、俺はふと手元に残った診察券を見つめた。
「おい、これが平等ってやつか?」
診察券を指で回しながら、俺は外へ出た。
そして、風に乗せて空に放り投げた。
「平等ってのは、結局こういうことなんだよな。誰が受け取るかは風任せだ」
診察券がくるくると回りながら、風に流されて消えていく。
それを見つめて、俺はため息をついた。
そして、胃の痛みがまだ残る中、再び歩き出した。