迷子のリーダー【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
ジョンは毎朝、鏡の前に立ち、陽気に宣言する。
「今日は運命が変わる日だ」と。
その声は、さながら朝の光のように鮮やかで、期待をふくらませる。
しかし、日が沈むころには、彼の言葉は空虚に響くばかりだった。
一方、マリーは鏡に映る自分を見つめながら、淡々と呟く。
「今日もまた、何も変わらない」と。
その声には、変わらぬ日常に対する諦めが漂っていた。
心の奥には、期待も希望も眠っている。
ジョンはカフェに入ると、豪華なパンケーキを頼み、店員に元気よく声をかける。
しかし、店員の無関心な態度とともに、注文は次々と間違えられ、彼の期待はまたもや失望に変わる。
小さな不運が重なり、ついには最後の望みすらも失われてしまう。
マリーは、同じカフェで一杯のシンプルなコーヒーをすすりながら、新聞の片隅を眺めていた。
そこに、忘れ去られていた懸賞の当選通知がひっそりと挟まっている。
彼女の平穏な日常が、ささやかな幸運によって静かに彩られる瞬間であった。
日が暮れ、ジョンは鏡の前に立ち、深い溜息とともに「今日も運命は変わらなかった」と呟く。
その顔には、希望の破片が残っている。
一方、マリーは同じ鏡の前で、柔らかな微笑みを浮かべながら「変わらない日常の中でも、良いことがあった」と呟く。
運命とは、心の持ちようによって決まるものなのだろう。
ジョンの願いが空回りし、マリーの冷静な心が思いがけぬ幸運を招く。
日常の中にこそ、静かな奇跡がひそかに息づいている。