続ける理由なんて、ない【ショートショート】
意味を探せば、終わりが見えてくる
ベンチに座って空を見上げる青年。
彼は、これまで一生懸命に取り組んできたプロジェクトが、もう限界かもしれないと感じていた。
誰も評価してくれない。
結果も出ない。
続ける意味があるのか?
彼の頭の中はその疑問でいっぱいだった。
「何か…答えが欲しい」
青年は、心の中で呟いた。
そんな時、老人が通りかかる。
見るからにくたびれたスーツを着た老人は、まるで何十年も同じ道を歩いてきたかのようだった。
「この人なら、何か知っているかも…」
青年は、何となくそう思い、思い切って声をかけた。
「おじいさん、ちょっと質問してもいいですか? 続けるべきか、もう諦めるべきか悩んでいるんです」
老人はゆっくりと足を止め、青年を一瞥した後、深いため息をついた。
「お前さん、若いのにそんなことで悩んでるのか。続けるのも、諦めるのも、大して変わりはしないさ」
「どういうことですか?」
青年は、思わず身を乗り出した。
「例えばな、このスーツだ。これを着て毎日同じ道を歩いて、もう何十年だろうか。成功も何もない。ただ、続ける理由もないからやってるだけだ」
「それじゃあ、成功するために続けてるわけじゃないんですか?」
青年は少し混乱した。
老人は肩をすくめ、笑った。
「成功なんてものは、ずっと前に諦めたよ。だけど、続けてる間はな、不思議と『まだ負けてない』って気分になれる。それで、十分なんだ」
「じゃあ、続けることに意味はないんですか?」
青年は真剣な顔で尋ねた。
「意味なんてものを探し始めると、すぐに諦めたくなるもんだ。考えるだけ無駄さ」
老人は、また歩き出そうとする。
青年はその言葉に呆然としつつ、立ち上がり、老人を見送った。
「…意味がないほうが、続けられるってことか?」
老人は振り返ることなく、ぼそりと呟いた。
「ああ、意味なんてないさ。それでも歩き続けるのが、人間ってやつだ」
青年はふと笑い出した。
続けることに意味がなくても、諦める必要もないのかもしれない。
やがて、彼は再び歩き始めた。
老人は、青年が遠ざかっていく姿を見て、袖を引っ張りながら自分に言った。
「さて、そろそろこのスーツも諦め時かもしれんが…まあ、まだ続ける理由もないしな」