正義の値段【ショートショート】
ヒーロー?いいえ、ただの投資家です
夜の街を見下ろす男、シャドウストライク。
黒いマントを背に、ビルの屋上で風に吹かれながら、彼はふと思った。
「俺、本当にまだヒーローでいるべきなんだろうか?」
特殊能力もない。
ただの人間だ。
彼が守ってきたこの街も、時代とともに変わり、敵はどんどん強力になっている。
かつては肉体と根性でどうにかなっていた。
だが今、歳をとり、体は確実に衰えている。
「努力だけじゃ、もう無理かもしれない…」
夜の巡回を終え、シャドウストライクは基地に戻る。
そこには、彼の長年の相棒、トミーが待っていた。
いつも通りの冷静な態度で出迎える。
「お疲れ様です、シャドウさん」
「なぁ、トミー」
シャドウストライクはスーツを脱ぎながら、口を開いた。
「俺はなんで、まだこの仕事をやってるんだろうな?特殊能力もないし、他のヒーローはみんな未来技術とか、超能力とかで戦ってる。それなのに、俺はただの人間だ」
トミーは一瞬、考えるように間を置いた後、口元に笑みを浮かべた。
「シャドウさん、実はずっと前から気づいていましたが…あなたには他のヒーローにはない、特別な能力があるんです。」
「俺に?」
シャドウストライクは眉をひそめ、疑問の色を浮かべた。
「まさか、俺に特殊能力が?」
トミーは自信たっぷりに頷いた。
「そうです。それは…お金です」
「……は?」
「お金です、シャドウさん。あなたの財産が、全ての装備や技術を支えているんです。普通の人間でも、最強のヒーローになれる。それも、この莫大な資産のおかげですよ」
シャドウストライクはしばらく無言で立ち尽くし、その言葉の意味を噛みしめた。
「お、お金か…結局、俺は金でヒーローをやってるのか」
彼は少し自嘲気味に笑い、スーツを再び身につける。
「…なんだか、悪の親玉みたいだな」
その夜も、シャドウストライクは街の闇に消えていったが、彼の心には、金と正義の境界線が曖昧になりつつあった。