公平な診察【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
「生まれつき幸運な人間なんて、存在しないんだよ」
男はデータを並べ、全員を黙らせた。
彼の理論は完璧だった。
誰も反論できない。
成功は努力次第、運なんて幻想だ。
その夜、男は何気なく宝くじの番号を確認する。
…当選していた。
「は?」
一瞬、思考が止まる。
いやいや、ありえない。
データ的にこんな偶然、説明できるはずがない。
男は少し考え、冷静さを装いながらチケットを握りつぶした。
「こんなもの、信じるか」
ゴミ箱に捨て、部屋の明かりを消す。
その瞬間、胸にひとつの小さな疑念が生まれる。
「もしかして…あれが人生最大のチャンスだったか?」
寝つけない夜が、静かに始まった。