成功のゲーム【ショートショート】
リセットボタンは、どこにもない
彼の会社は、まるで底なし沼に沈むように、ゆっくりと、しかし確実に衰退していた。
業績は低迷し、社員たちは生気を失い、オフィス全体が重苦しい空気に包まれていた。
彼は何度も打開策を考えたが、どれも効果がなく、焦りと無力感が募るばかりだった。
彼は、なぜこんなにも手応えを感じられないのか、その理由を探り続けていた。
会社のゴールは明確で、計画も存在した。
だが、計画を進める中で、彼と社員たちは次第に達成感を失っていった。
業績や数字がすべてを支配し、仕事の目的や情熱が薄れていったからだ。
ある夜、彼は自宅でオンラインゲームに没頭している自分に気づいた。
ゲームの中では、すべてがクリアだった。
目標は明確で、障害も明白、そしてなにより達成感がそこにはあった。
彼はふと、今の会社の状況と比較した。
そして考えた。
「すべてをゲームにしてしまえばどうだろう?」
その発想は、彼にとって救いのように思えた。
ゲームのように目標を設定し、障害をクエストとして捉えることで、再び達成感を取り戻せるのではないかと感じたのだ。
彼はすぐにその考えを実行に移した。
仕事は「レベルアップ」、会議は「ボス戦」、プロジェクトは「クエスト」として進められ、社員たちはそのゲームに引き込まれていった。
計画は成功を収めた。
社員たちは次々と目標を達成し、会社は見違えるように成長を遂げた。
彼自身も、再び手応えを感じることができた。
しかし、その裏で彼は次第に違和感を覚え始めた。
社員たちは、仕事に没頭するあまり、家庭や友人との時間を犠牲にしていたのだ。
ゲーム化された仕事は、彼らの生活の中心となり、すべてを飲み込んでいった。
彼はその状況に直面し、深く悩んだ。
仕事は現実そのものであり、ゲームのように進めているとはいえ、現実の重みが伴う。
彼らの生活は、仕事に支配され、バランスを失ってしまったことに気づいたのだ。
彼自身も、その渦に巻き込まれていた。
ゲーム化された仕事が現実の厳しさを和らげることはなく、むしろその重みを増すばかりだと理解し始めた。
リセットボタンは存在せず、現実にはやり直しはきかない。
彼らは選んだ道を進み続けるしかなかった。
そして、彼は自分に問いかけた。
「この道の先には何があるのだろう?」
その問いは、彼の胸に重くのしかかり、答えが見つからないまま、彼の心に残った。