小噺ショート
PR

最後に折れるもの【ショートショート】

佐藤直哉(Naoya sato-)
<景品表示法に基づく表記>当サイトのコンテンツ内には商品プロモーションを含みます。

折れても、終わりじゃない。

「折れたらどうする?」

新兵の問いに、ベテラン兵は剣を研ぎながら顔も上げずに答えた。

「予備を使え」

「予備も折れたら?」

「相手の剣を奪え」

新兵は息をのんだ。

「相手の剣も折れたら?」

「拳で戦え」

新兵は拳を握る。
指の関節がパキッと鳴った。

「拳も折れたら?」

「蹴りを使え」

「足も折れたら?」

「……噛みつけ」

新兵はギョッとした。

遠くでカラスがカァと鳴いた。

「歯も折れたら?」

ベテラン兵は初めて手を止めた。

そして、しばし考えた後、ゆっくりと言った。

「なら、頭を使え」

新兵は戸惑いながらも頷いた。
知恵こそ最後の武器。
ならば、それを磨けばいい。

そして、新兵は戦場へ出た。

結果──全身骨折。

病室の天井は、妙に白かった。

ギプスに包まれ、動けるのはまばたきだけ。

窓の外で風が吹くたび、木々の影がゆらゆらと揺れていた。

そこへ、ベテラン兵がやってきた。

「で、極意は掴んだか?」

新兵は、わずかに目を動かしながら答えた。

「ええ……“最後に折れるのは、覚悟でした”」

ベテラン兵は眉を上げた。

新兵は、ギプスに包まれた指をほんの少し動かしながら続けた。

「剣が折れても、戦う手段はある。身体が折れても、心があれば戦える……でも、覚悟が折れたら、そこで終わりです」

ベテラン兵は静かに目を閉じた。

そして、剣を静かに鞘へ戻した。

窓の外。
沈みかけた夕陽が、剣の切っ先のように赤く燃えていた。

それはまるで、“折れるべきでないもの” を、そっと照らすように。

ABOUT ME
佐藤直哉(Naoya sato-)
佐藤直哉(Naoya sato-)
ブロガー/小説家
小説を書いていたはずが、いつの間にか「調べたこと」や「感じた違和感」を残しておきたくなりました。
このサイトでは、歴史の中に埋もれた謎や、日常でふと引っかかる“気になる話”をもとに雑学記事、4コマ漫画、風刺ショートショートとして発信しています。
テーマはちょっと真面目。
「なんかどうでもよさそうなのに、気になる」
──そんな話を集めて発信しています。
読んだ人の中に“ひとつくらい、誰かに話したくなる話”が残れば嬉しく思います。
記事URLをコピーしました