増強装置の代償【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
田舎の農夫ジョンは、「これが人生最大の冒険だ!」と意気揚々と都会を訪れた。
しかし、眩しいネオンに目がチカチカし、人混みに酔いそうになりながら、ふらりと洒落たカフェに入ってみた。
メニューを見た瞬間、彼の顔は凍りついた。
「な、なんだって!?コーヒー一杯が千円だと!?まさか金粉でも入ってるのか?」
店員は営業スマイルを崩さずに答えた。
「いえ、特別なブランド豆を使用しておりますので」
ジョンは頭をかきむしりながら首をかしげた。
「ブランド豆?豆にそんな大差があるのか?」
都会の喧騒に疲れ果てたジョンは田舎に戻り、納屋で腕組みして考えた。
そして突然、ポンと手を打った。
「そうだ、自分もブランドを作ればいいんだ!」
彼は自分の育てたごく普通のトウモロコシに『超プレミアム・オーガニック』と大きく書いた札を付け、市場に出した。
するとどうだろう、都会から観光客がわんさかやってきて、高値で買っていくではないか。
「ブランドってのは、まるで魔法だなあ…」
ジョンは感心して鼻歌まじりに収穫を続けた。
味をしめた彼は次に『究極の田舎ライフ体験ツアー』を企画し、一人十万円で募集をかけた。
驚いたことに、都会の人々は目を輝かせて参加し、畑仕事や家畜の世話に大はしゃぎだ。
ツアーが終わる頃、ジョンは満面の笑みで言った。
「いやあ、働いてもらってお金までもらえるなんて、これで経済格差も解消だな!」
参加者の一人が泥だらけになりながらつぶやいた。
「ちょっと待てよ…これってただの労働じゃないか?」
ジョンはウインクして肩をすくめた。
「何言ってるんだい?これが特別な『体験』ってやつさ!」