甘い蜜か、苦い現実か【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
雪山の別荘に集まったのは、僕を含めて3人だけだった。
暖炉の炎が揺れる中、談笑していると、突然の停電で部屋が暗闇に包まれる。
慌てて懐中電灯を点けると、友人の一人がいなくなっていた。
しばらくして、ドアが軋み、消えたはずの友人が何事もなかったように戻ってきた。
「悪い、外の様子を見に行ってただけだよ」と彼は笑うが、吹雪の中にいたはずなのに、服には雪ひとつ付いていない。
妙な違和感を感じたが、彼ともう一人が懐中電灯を持って別室へ向かい、僕は暗闇の中で待機することになった。
静寂に包まれる中、ふと外から声が聞こえた。
戻ってきたはずの友人の声が、遠く低く、吹雪に混じって響いている。
「おい、開けてくれ……寒くて凍えそうだ」
その瞬間、背後のドアがゆっくりと開く音がして、暗闇に僕の影が揺れた。
それは、すぐ後ろに「誰か」が立っているかのようだった。