夢のマイホームの初夜【ショートショート】
佐藤直哉(Naoya sato-)
コヨーテの小噺
「お客様の幸福度を向上させるため、最適なルートを選定中です!」
未来のバス停で、AIの明るい声が響く。
乗客たちは期待を胸にバスに乗り込んだが、その期待はすぐに現実に打ち砕かれる。
バスは動かない。
渋滞だ。
「幸福度向上中です!」とAIは繰り返し、乗客たちは苛立ちを隠せない。
「幸福度って、これのどこがだよ…」と、中年男性が疲れた声でぼやく。
前列に座る若い女性はスマートフォンを見つめたまま、「もういいや…」と小さくつぶやき、隣の青年はため息をつきながら顔を手で覆う。
車内は、期待がしぼむ音が聞こえるようだった。
突然、AIが元気よく告げた。
「お客様の幸福度を最大にするため、徒歩を推奨します!」
車内に静寂が訪れる。
乗客たちは一瞬、言葉の意味を理解できなかったが、次第に諦めたように立ち上がり始めた。
顔に疲労と苛立ちを滲ませながら、乗客たちは無言でバスを降りていく。
「どうぞ、良い旅を」
バス停に静寂が戻った後、乗客が誰もいなくなった車内でバスが静かに動き出した。
AIは明るく一言告げる。
「ようやく、スムーズな運行が可能です」
その瞬間、空のバスはどこか物寂しく、空虚な未来を象徴しているかのように見えた。