小噺ショート
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幸福行きのバス【ショートショート】

佐藤直哉(Naoya sato-)
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幸福度最大化のため、全員降車

「お客様の幸福度を向上させるため、最適なルートを選定中です!」

未来のバス停で、AIの明るい声が響く。

乗客たちは期待を胸にバスに乗り込んだが、その期待はすぐに現実に打ち砕かれる。

バスは動かない。

渋滞だ。

「幸福度向上中です!」とAIは繰り返し、乗客たちは苛立ちを隠せない。

「幸福度って、これのどこがだよ…」と、中年男性が疲れた声でぼやく。

前列に座る若い女性はスマートフォンを見つめたまま、「もういいや…」と小さくつぶやき、隣の青年はため息をつきながら顔を手で覆う。

車内は、期待がしぼむ音が聞こえるようだった。

突然、AIが元気よく告げた。

「お客様の幸福度を最大にするため、徒歩を推奨します!」

車内に静寂が訪れる。

乗客たちは一瞬、言葉の意味を理解できなかったが、次第に諦めたように立ち上がり始めた。

顔に疲労と苛立ちを滲ませながら、乗客たちは無言でバスを降りていく。

「どうぞ、良い旅を」

バス停に静寂が戻った後、乗客が誰もいなくなった車内でバスが静かに動き出した。

AIは明るく一言告げる。

「ようやく、スムーズな運行が可能です」

その瞬間、空のバスはどこか物寂しく、空虚な未来を象徴しているかのように見えた。

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佐藤直哉(Naoya sato-)
佐藤直哉(Naoya sato-)
ブロガー/小説家
小説を書いていたはずが、いつの間にか「調べたこと」や「感じた違和感」を残しておきたくなりました。
このサイトでは、歴史の中に埋もれた謎や、日常でふと引っかかる“気になる話”をもとに、雑学記事、4コマ漫画、風刺ショートショートとして発信しています。
テーマはちょっと真面目。
でも、語り口はすこし皮肉で、たまにユーモア。
「なんかどうでもよさそうなのに、気になる」
──そんな話を集めて、掘って、遊んでいます。
読んだ人の中に“ひとつくらい、誰かに話したくなる話”が残れば嬉しく思います。
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