神よりも頼れる工具【ショートショート】
結局、祈るよりドライバー
「酸素、あと3時間……か」
リョウは腕を組んでモニターを睨んだ。
ここは宇宙コロニーの一角。
何らかの原因で酸素供給装置が故障し、コロニー全体が酸素不足の危機に直面していた。
住民たちはすでにパニック状態に陥り、早速祈りを捧げ始めている。
「神様、どうかお救いを……!」
「おいおい、これが神の出番なら、俺は何のためにいるんだ?」
リョウはため息をつく。
冷静に見えるが、内心では修理ドローンが失敗するたびに焦りが増していた。
「ドローンはダメか。ま、予想通りだな」
リョウは肩をすくめて言った。
彼はいつもどこかシニカルで、自分以外に頼ることを嫌っていた。
人一倍器用で、その自負がある分、他の方法に期待を持たない性格だった。
「結局、自分でやらないと気が済まないんだよな……」
そう呟きながら、工具を掴む。
リョウはためらうことなく、足早に装置室へ向かう。
こういう時こそ、頭をクリアにして冷静に対処するのが彼の流儀だ。
「さて、ここが勝負どころだな。俺がミスれば全滅だが……ま、なんとかなるだろう」
自分に言い聞かせるように、リョウはドライバーを握りしめた。
配管室にたどり着くと、息を整え、装置に向かう。
汗が額ににじむが、動揺することなく、機械を修理する手つきは確かだった。
彼は決して焦らない。
何度も同じ状況に直面してきた経験があるからだ。
「さあ、これで……よし、これで頼むぞ!」
リョウは慎重にバルブを回す。
シューッと、酸素が流れ始めた瞬間、思わず拳を握り締めた。
「やったな!」
ホッと息をつくが、その直後、コロニーの住民たちが歓喜の声を上げた。
「神様、ありがとうございます!」
「……いや、俺だろ?」
リョウは苦笑しながらドライバーを見つめる。
「まぁ、こんなもんだよな。感謝する相手を間違えてるが、気にしないさ」
彼はドライバーを腰に差し込み、軽く肩をすくめる。
「次はもっと派手にやるか。そしたら俺の手柄、さすがに気づくだろ」